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堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

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堕天使と殺人鬼--第9話---2

「命が惜しかったら、どんなことでも確認だけは怠るな。分かったな?」
「はい……。」
 葉太はほっとしたような表情を作ったが、依然として落ち込んだままであった。そんな葉太の肩を、隣にいた加藤が元気付けるように叩く。そんな光景に三木原は無意識の内に微笑していた。
「相変わらず、三木原教官は我々に甘いですね。」
 加藤が三木原の微笑を見て、まるで親しい友人を冷やかすかのようにそう言う。三木原はその言葉に、今度は苦笑を漏らした。
 加藤が続けた。
「私としては、そんな三木原教官は大好きなのですが……」そこまで言って数秒間を空け、加藤は一変して表情を固くする。「くれぐれも、中原一尉の前ではその態度を出さぬよう、気を付けて下さい。」
 三木原は一瞬どきりとしたが、「……分かってるよ。」と、軽く手を振ってそれに答えた。加藤が自分を心配していることはよく伝わって来るのだが、他に気の利いた言葉が思い付かなかった。しかし加藤は、それだけで満足したようだった。
 加藤俊一郎とはこの仕事に就いて以来の長い付き合いだ。だから彼のことはよく知っているし、彼も三木原のことをよく理解してくれていた。仕事上では上司と部下と言う関係であったが、加藤は三木原の友人でありよき理解者だった。
 加藤の隣で、今の会話を聞いていた葉太が深刻そうに頷いている。
 竹村葉太は何度も言うようにこの仕事に就いて間もなかったが、加藤が新人の彼に必要以上に目を掛けていたため、加藤と親しい間柄の三木原も自然と葉太とは馴染み深い関係になっていた。それ以前に葉太が、この仕事の人間にしては慈悲深い三木原をかなり慕っていたこともある。
 葉太にとって尊敬する上司である三木原を、彼も心配しているようだった――確かに、問題を起こしてしまった彼になんの処分も与えないとなると、この国に忠実に慕っている中原茂は不審に思うだろう。しかし、だからと言って三木原はどうしようとも思わなかった。上手く言いくるめられる自信があるからだ。
「……葉太、心配しなくても大丈夫だ。どうにでもなる。」
 三木原そう言って、半分なくなった煙草を灰皿に押し付けた。
「……それで、三木原教官……さっきから気になっていたことがあるんですが……。」
 急に加藤が、言いながら三木原の足元に視線を向け眉間に皺をぐっと寄せるのを見て、三木原はすぐに加藤の言いたいことを理解した。
「……お前の想像通り」息苦しさを抑えて、戸惑いがちに三木原は声を絞り出すように言い放った。「さっきの女子生徒の死体だよ。」
「やっぱり、そうでしたか……。」
 三木原の言葉に、加藤は小さく呟いて深い溜息を付くと何度も首を振る。しかしすぐに自嘲したような笑みを浮かべて、その青白い唇から低く笑い声を漏らした。このような彼の態度が諦めた時のものだと言うことを、三木原は知っていた。
「……三木原教官。」加藤がふと笑みを止めて、三木原を直視して来る。「私はですね、これの補佐官を務めると決まった時はいつも、自分に言い聞かせるんです。人間の心を、決して持たないようにと……。」
 もやもやとしていた胸の中が、更に乱されるような感覚を覚えた。知らず知らずの内に、三木原は加藤から目を逸らしていた。
 加藤は三木原の胸の内を察したのか、それ以上もう何も言わなかった。ただ、また首を左右に、何度も何度も振るだけだった。
 暫しの沈黙が流れる。


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