光の風 〈覚醒篇〉-4
「それか、気付いて黙ってるか。」
有り得ることかもしれない。静かに同意の声をもらすと紅奈は口を閉じた。あのリュナなら有り得ることかもしれない。
全てを悟って皆の気持ちに合わせてくれているのかもしれない。そして部屋で一人で泣いているのかもしれない。
「千羅と瑛琳から連絡は?」
貴未の質問に紅奈は首を横に振るだけだった。もちろん、貴未の所にも連絡はない。ただ一度だけ、一人でカルサの番をしていた時に千羅がやってきた。
必ず鍵を探してみせると、カルサと貴未に誓い、それまで待っていてくれと告げて行った。あれからもう、どれほどの時が流れたのだろうか。
不安を通り越して希望さえ失いそうな時間が流れたような気がする。
聖は今日も結界の状態を確認するために外に出ていた。光の神がいない今、この国は自分達で守っていかなければいけない。
これが国王と神に頼りきった自分達のツケなのだろうか。だからなのか、サルスは軍事態勢の改善や自治体の役割を中心に再形勢を行なっている。
自分にはカルサの様な力はないから、何かあった時の為に国民を守れるよう国の力を増やしている。
「国王であり雷神である人物を失うたんは辛いけど…何よりこんな姿のカルサを見てるんが一番辛い。」
一人を失ったことでこんなにも世界が暗く辛く思える。自分の力の無さ、ふがいなさに紅奈はたまらず涙が出た。
貴未は紅奈に近寄り彼女の背中に自分の背中を合わせた。
「信じよう、千羅達を。」
彼女の頼りなく曲がった背中は小さく震えていた。声無く流れる涙は抑えきれない感情の表れだった。
「信じよう。」
思いも気持ちも顔も全て上に向けていこう。未だ鍵を見付ける為に、未来を信じてやまない千羅たちを信じて。
紅奈をなだめていたかと思うと、一瞬にしてその場の空気が張り詰めた。何かが近づいている気配がする。
「貴未。」
「分かっている。」
侵入者がいる、それも一人ではない。緊迫する空気、傍には何が何でも守らなければならない人物がいる。二人は確実に近づいてくる気配に全神経を集中させた。
「ここがシードゥルサへの界の扉だ。」
この世に存在する世界の数だけ作られた界の扉、それらが集まった界の扉の間に彼らはいた。
大事そうに両腕にリュナを抱え祈るような気持ちでいっぱいの千羅。彼を先頭に日向、瑛琳と続く。
「一つのみ対応のどこでもドアって感じだなぁ。」
界の扉の仕組みを聞いた日向が呟いた。今自分が立つ場所に不思議と違和感あまり無かった。他人とは違う自分を今まで隠すことが当たり前だった、しかし自分が普通でいられる空間がまさにここなのだ。
「恐いわね…千羅。」
めずらしく弱気な発言をしたのは瑛琳だった。問いかけられた千羅も同意の声をもらす。