*** 君の青 最終回***-1
クリスマス。チルチルとミチルは、光・犬・猫・パンの精たちと共に青い鳥を探す旅に出た。この世にはない、違う世界へ。生者と死者が互いに楽しい時間を過ごす「思い出の国」、幽霊・病気・戦争など、あらゆる不幸の元となる精が閉じ込められている「夜の御殿」、自然と人間との宿命にも似た戦いを繰り広げる「森」、死者の世界を描く「月夜の墓地」、さまざまな幸福のあり方を知る「幸福の花園」、命の源の「未来の国」・・・冒険は一年続き、一晩で覚めた。
二人と仲間達は、幸福の青い鳥を見つけてはつかまえた。けれどそれらは全て、本物の青い鳥ではなく時間が経つと死んでしまうもの、もしくは青から色が変わってしまうものばかりだった。捕まえた鳥に本物はいなかった。そして、青い鳥が見つからないままで、二人はゆっくりと目を開けた。外を見ると次の朝がきている。目覚めは、仲間達との別れだった。けれどそれは、本当の幸せとの出会いでもあった。チルチルとミチルはいつもとは何かが違うことを感じた。同じ風景が、匂いが、何故か不思議に幸福と感じた。生きているという事実に、言葉ではいいようのない感動を感じていたのだった。二人が青い鳥を見つけたのはそれからすぐのことだった。幸福の鳥は、すぐ手の届く鳥かごの中にいた。一年間、他の世界まで行って探し回っても見つからなかった青い鳥は、チルチルの飼っている、決して澄んだ青とはいえない鳥だった。幸福の青い鳥は、すぐそばにいた。
そして、僕は目を開けた。
そこにはチルチルやミチルの姿はなく、青い鳥もいない。紛れもなく僕の乱雑な部屋だった。 すずめのさえずりとカーテンの隙間から差し込んでくる薄い光が、僕を目覚めに誘ったのだ。珍しくだるさのない朝だった。よっぽど深い眠りに落ちていたのだろう。僕は上体を起こすと、両手両足先まで力がいき届くように思いっきり伸びをした。
「青い鳥かぁ」
カーテンを勢いよく開けると、朝日がいっせいに飛び込んでくる。眩しさで眉間に力を入れながら、外の景色を眺めた。もしかして冬を飛ばして春がきたのでは、と疑いたくなるほどいい天気だ。僕はパジャマのボタンを一個一個外しながら、昨日の夜、闇の大海に広がる無数の光を見下ろして、雫が口に した一言を思い返していた。
”絆の幸せの青い鳥はなんなんだろうね”
あの時の言葉が浮かぶだけで、こんなにも胸が苦しい。
「なんなんだよ、一体」
再びベッドへ腰を下ろし、考えた。
彼女の探していた青い鳥とは僕の想像していたものとは違った。ならば一体、彼女の見つけたいものとはなんなのだろう。そういえば、彼女がここへきた時に、ここへくれば見つかるのだと言っていた。
僕の家と何か関係があるのだろうか。
「きぃずぅなぁ」
考えかけたところで、ドアの向こうからあの元気な声が聞こえてきた。今朝は、珍しく頭の中がはっきりしているらしい。
「朝だよぅ。起きてぇ」
雫はノックしながら付け加えた。
「朝ご飯が冷めちゃうよ。早く食べて」
「は?朝食?お前が?」
なんとも意外。低血圧な雫が朝食を作ってくれるなんて、ここでの暮らしが始まって初めてのことだ。この後、槍でも降らなければいいのだけれど。僕は立ち上がり、
「はいはい」
と笑いながらベルトへ手を伸ばした。
「起きろぉぉぉ」
ドンドンドンドンドンッ。
頭がはっきりなんてものじゃない、これじゃあ、ハイテンションだ。僕はベルトをはめるのも途中で、ドアを開け、顔を突き出した。
「おい、うるさいぞ!起きてるよ!なんだよ朝っぱらから、だいたい昨日寝たのだって何時・・・」
僕がしゃべり終わる前に、昨日感じた激痛とよく似た痛みが、また腹を中心に電流のごとく体中を駆け巡った。またしても雫の一撃だった。