*** 君の青 最終回***-9
雫はすっと空を見上げた。いつの間にか雪はやみ、雲はちぎれてほとんどなくなっている。
暗い夜空には、冬の星座がいくつも広がっていた。
「私の青い鳥は、絆、あなたとの日々だった。絆と、毎日青い鳥を探して回ったあの夢のような日々・・・ここへきて、あぁ、やっぱりなって思っちゃったよ」
「雫」
「これが私の青い鳥」
雫は恥ずかしそうにそっぽをむくと、手の甲で両目をこすりだした。
「眠いのか?」
と聞くと、彼女は手を動かしながら頷いた。無理もない。僕の時計はとっくに十一時をすぎている。
ただでさえ疲れやすい体なのに、これで本当に風邪なんかひいたらしゃれにならない。
僕は速さを増して今にも口から飛び出そうな心臓を、唾のように飲み込むと、雫の肩をぐいっと抱き寄せた。
「・・・雫」
震える声を懸命に絞り出す。
「ん?」
「ずっと、言おう言おうと、思っていたことがあるんだ」
「なに?」
その顔は、まるでプレゼントを待つ時の子供のようにあどけない。
「ずっと・・・ずっとお前が好きだった。その、でも、さ、言えなかったんだ。それが理由で、気まずくなったらどうしようかとか考えたら、どうしても」
とうとう言ってしまった。後は越えてしまったハードルのように、落ち着くのを待つだけだ。
そう思った数秒後、雫の言葉が再び僕をどきりとさせた。
「知ってたよ。そんなの最初から」
けろりとした顔で、何てこと言うんだ、こいつは。
僕は面食らって言葉に詰まった。
「ふふぅん、私は勘が鋭いからね」
「い、嫌な勘だな・・・」
今度は僕の方がそっぽを向いて、どもった。
顔が耳の先まで熱い。きっと今の僕は、ゆでだこのようにまっかっかに違いない。
雫は僕の髪の毛をくいくい引っ張りながら続けた。
「返事はしないからね。返事は・・・そうだなぁ。私の手術が終わって元気になってからかな」
その言葉を最後に、雫の声がぴたりと聞こえなくなった。ぞっとして向きなおると、僕の肩の上から小さく寝息が聞こえてくる。眠ったのだ。ふと彼女の手元を見ると、この間、倒れたときに飲んだ薬の箱が大切そうに握られている。僕がここへくる前に飲んだのだろう。眠かったのは、疲れよりも薬のせいだったに違いない。
「返事は、後かぁ」
子供のように眠る雫の小さな頭を撫でながら、僕は、輝くイルミネーションを眺め見た。
「いいさ。別に、いつになったって・・・お前を好きなことに変わりはないんだから」
その時、僕は確信していた。僕にとって、幸せの青い鳥がなんであるかを。チルチルとミチルがそうであったように、僕もまた二人と同じだったということを。青い鳥はすぐそばにいた。
いつでもこうして、手の届くところで僕を見ていてくれたのだ。
僕は隣りで眠る雫を見つめながら、そっと彼女の耳元へ唇を近づけた。それは、
「おやすみ」という言葉と同じように優しく、そして無理なくいえたと思う。
「雫、僕の青い鳥・・・」と。