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■LOVE PHANTOM ■
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*** 君の青 最終回***-9

雫はすっと空を見上げた。いつの間にか雪はやみ、雲はちぎれてほとんどなくなっている。
 暗い夜空には、冬の星座がいくつも広がっていた。
 「私の青い鳥は、絆、あなたとの日々だった。絆と、毎日青い鳥を探して回ったあの夢のような日々・・・ここへきて、あぁ、やっぱりなって思っちゃったよ」
 「雫」
 「これが私の青い鳥」
 雫は恥ずかしそうにそっぽをむくと、手の甲で両目をこすりだした。
「眠いのか?」
 と聞くと、彼女は手を動かしながら頷いた。無理もない。僕の時計はとっくに十一時をすぎている。
 ただでさえ疲れやすい体なのに、これで本当に風邪なんかひいたらしゃれにならない。
 僕は速さを増して今にも口から飛び出そうな心臓を、唾のように飲み込むと、雫の肩をぐいっと抱き寄せた。
 「・・・雫」
 震える声を懸命に絞り出す。
 「ん?」
 「ずっと、言おう言おうと、思っていたことがあるんだ」
 「なに?」
 その顔は、まるでプレゼントを待つ時の子供のようにあどけない。
 「ずっと・・・ずっとお前が好きだった。その、でも、さ、言えなかったんだ。それが理由で、気まずくなったらどうしようかとか考えたら、どうしても」
 とうとう言ってしまった。後は越えてしまったハードルのように、落ち着くのを待つだけだ。
 そう思った数秒後、雫の言葉が再び僕をどきりとさせた。
 「知ってたよ。そんなの最初から」
 けろりとした顔で、何てこと言うんだ、こいつは。
 僕は面食らって言葉に詰まった。
 「ふふぅん、私は勘が鋭いからね」
 「い、嫌な勘だな・・・」
 今度は僕の方がそっぽを向いて、どもった。
 顔が耳の先まで熱い。きっと今の僕は、ゆでだこのようにまっかっかに違いない。
 雫は僕の髪の毛をくいくい引っ張りながら続けた。
 「返事はしないからね。返事は・・・そうだなぁ。私の手術が終わって元気になってからかな」
 その言葉を最後に、雫の声がぴたりと聞こえなくなった。ぞっとして向きなおると、僕の肩の上から小さく寝息が聞こえてくる。眠ったのだ。ふと彼女の手元を見ると、この間、倒れたときに飲んだ薬の箱が大切そうに握られている。僕がここへくる前に飲んだのだろう。眠かったのは、疲れよりも薬のせいだったに違いない。
 「返事は、後かぁ」
 子供のように眠る雫の小さな頭を撫でながら、僕は、輝くイルミネーションを眺め見た。
 「いいさ。別に、いつになったって・・・お前を好きなことに変わりはないんだから」
 その時、僕は確信していた。僕にとって、幸せの青い鳥がなんであるかを。チルチルとミチルがそうであったように、僕もまた二人と同じだったということを。青い鳥はすぐそばにいた。
 いつでもこうして、手の届くところで僕を見ていてくれたのだ。
 僕は隣りで眠る雫を見つめながら、そっと彼女の耳元へ唇を近づけた。それは、
「おやすみ」という言葉と同じように優しく、そして無理なくいえたと思う。
 「雫、僕の青い鳥・・・」と。


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