『暖かい雪-1-』-2
「お客さんはどこから?」
「東京だ。新潟来た事なかったから。」
「…東京?あたしも住んでたんですよ、3年前にこっちに越してきたから。」
「そうか、どうして新潟に?」
「んー…聞いたって面白くないですよ。それよりほら、お客さんお風呂には入りました?」
その日、彼女がすすめた風呂で体を温め、俺はこれからの一人旅の計画にただ胸を膨らませて眠りについた。
2日目の朝、朝食をとる前に宿を出ると外はまだ薄暗かった。
「あれー?昨日の…。」
声がしたと思ったら、民宿の土地の畑から、昨日の娘が歩いて来た。
片手にまだ泥のついた大根を持ち、
「おはようございます、早いんですね。」
と俺に言った。
「おはよう、そっちこそ早いね。それ、朝食のやつ?」
「この大根?そうですよ。今日は大根のお味噌汁なんです。」
彼女は言いながらまた畑に戻っていき、俺の目の前で大根をもう2本抜いた。
「美味しいんですよ。」
「じゃあ、食べてからスキー行くかな。」
「はい。お客さん、滞在期間どれくらいでしたっけ?」
「2週間と3日。」
「長いですねぇ!こんな田舎の村にそれだけいたら、飽きちゃうんじゃないですか?」
「いや、寧ろ都会から逃げて来たようなもんだから…。」
「じゃあ、あたしと同じかな。」
「え?」
「都会もいいけど、ここもいい所です。」
「あぁ、雪が綺麗だね。」
「雪?あぁ…東京から来た人はみんな…ね。でも3年もいればいろいろと大変なんですよ。」
「そうか。」
無愛想で気のきいた答えが出来ない自分の性分を、俺は呪った。
彼女は俺に軽く一礼すると、小走りに宿の裏口へ入って行った。
そして姿が見えなくなったと思うと、右半身だけ裏口から出して、
「あ、すいません!お客さんお名前は…。」
と声を張り上げて聞いてきたので、
「水沢。水沢雄一。」
とこちらも声を張り上げて答えると、彼女の顔がほんの一瞬だけ、曇ったような気がした。
フルネームで言った所が、やはり余計だったのだろうか。
しかし彼女は再び可愛らしい笑顔に戻って、
「あたし、清水舞子です!」
と答えてくれた。
白く冷たい雪の中、俺は自分の頬が熱くほてりそうな事に気付き、思わずその頬に手の甲をあてた。