投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

失恋の夜
【女性向け 官能小説】

失恋の夜の最初へ 失恋の夜 2 失恋の夜 4 失恋の夜の最後へ

変化の夜-1

ダンダンッ…バンッ…。
弾むボールの音を聞きながら、私はそれを見るでもなく、ボーっとしてる。
ここは大学の体育館。
今日は所属するバスケットサークルの活動日。
今は男の子達が5対5のゲームをしているから、ちょっと休憩中。

ザンッ…。
「いいおと…」
ボールがゴールのリングに触れないで入ったときのゴールネットの音。
私はこの音がたまらなく好きだ。
シュートを決めたのは…田畑。
約1ヶ月前に失恋したあの日、どん底にいた私を引っ張りあげてくれた後輩。

「いつでも責任取りますから」なんて言っておいて、あれ以来田畑からはなんのアクションもない。
私もバイト増やしたり、振られたのを聞いた友達に失恋パーティー(笑)してもらったり、合コンセッティングされたり、色々引っ張り廻されて正直田畑とそんな風になる暇もなかったけど…。

「ヘイ!パスパースッ!!」
走りながら田畑がチームメイトに声をかける。
田畑はいつもと同じとびっきりの明るい笑顔。
この間とは全然違う。

優しい、柔らかい笑顔。あの笑顔で私は救われた。
あの笑顔、もう見れないのかなあ…。

なんて、柄にもなくため息を漏らしたその時。

「あ〜きちゃん♪なに田畑くんに熱い視線送ってんの〜♪」
「…ハイハイ、送ってないから」
声の主は愛。
同じサークルのメンバーだ。
「あー!!亜紀ってば冷たい!!」
「アホな事言ってるからでしょ?」
泣き真似をする愛に告げる。
「冗談は置いといて、田畑かっこいいからけっこうモテるんだよ。ま、大学入ってから今までで告白されて付き合った女の子いないみたいだけどね」

私だってそのくらい知ってる。
田畑は背高いし、顔もいいし、人懐こくてみんなに好かれる性格の良さだし。
これで彼女無しだから当然言い寄ってくる女は多い。
それなのに浮いた噂一つない。

やっぱりこの間のセリフに関係あるのかなあ…。
『俺が恋愛でどうにもなくなってたときの顔と似てたから』
田畑は私にそう言った。
昔、何かあったんだろうか。

「…亜紀!亜紀〜っ!あんた人が話してるときにトリップしないでくれる?」
やば。愛の話全然聞いてなかった…。
「ごめんっ!最近バイトで疲れててさ、でなに?」
「もう!最近サークルで飲み会してないから、みんないるし今日やろっかって話になってるんだけど。亜紀今日予定ある?」
「飲み会ねえ…」
最近こういうはじけられる面子と飲み会してないもんね。合コンじゃ気使うし。
「いいよ。予定ないし」
「よし!決まりね!んじゃ幹事に亜紀参加ってことで伝えるから!」
誰より張り切ってるんじゃないの?ってくらいやる気満々の愛の背中に苦笑しつつ、私はボールを手に立ちあがった。


「えーっ!!じゃあ亜紀ちゃん彼氏と別れちゃったんだ!」
「別れたというか振られたって言ったほうが正しいですけどね…」
「もったいねーなー。亜紀ちゃん振るなんて見る目ないない!」

ここは飲み会の会場。大学から程近い居酒屋だ。
飲み始めて間もないのに早速愛に私の別れ話を持ち出され、酒の肴にされている。
ネタにしつつもみんな励ましてくれるから、ありがたいけど。

ちらり、と斜め向かいを見る。
目線の先には田畑。
別な子と盛り上がって、当然こちらは見ていない。
席は近いのになぜか遠く感じる。

「ごめん、ちょっと出てくるわ」
私はちょっと寂しくなった気分を抱えて席を抜けた。

「気持ちいいー…」
テラスに出ると感じるちょっと冷たい風。
酔って火照った体にはちょうどいい。

「何か遠いな…」
ぼそりとつぶやく私に突然降る声。
「何が遠いの?」
「!」
…田畑だった。

「べ、別に」
「あ〜、何か亜紀さん俺に冷たくね?寂しいなー」
「…バカ」
しゅんとしたフリをする田畑に苦笑する。
「最近冷たいのはあんたでしょうが。何も話しかけてこないし」
「『いつでも責任とる』って言ったのに?」
覗き込むようにして聞いた田畑の質問の答えに困って、私は黙った。

「ほんとはさ」
急に真面目な顔で田畑が口を開く。
「亜紀さんとしちゃってから、どうしていいかわかんなかったんだ。もちろん言ったことに嘘はないよ。けど、もし亜紀さんがこの間のこと嫌だったらって思うと話しかけられなくて…」
「田畑…」

ドキリ、と私の胸が音を立てる。
田畑があまりに切ない顔をするから。

「そんなことない!」
私は思わず声を荒げた。

「亜紀さん?」
「そんなことないよ!あのとき田畑が一緒にいてくれてホントに嬉しかった。どれだけ楽になったか。
だから感謝することあっても嫌いになんてならないよ!」
なんで私はこんなに焦ってるんだろう。
けど、田畑に切ない顔をさせたくない。
その気持ちは確かで。

「亜紀さん、泣かないで」
「え…?」
いつの間にか私の目からこぼれ落ちる涙。
なんで泣いてるの?
自分が流した涙の意味がわからず、思わず戸惑う。

「亜紀〜?そろそろ戻っておいでよー」
愛の声が近づいてくる。
どうしよう。
こんなとこで泣いてるの見つかったら絶対おかしいって騒がれちゃう。

グイッ!
その時、田畑が私の腕を掴んで引き寄せた。
私の泣き顔が隠れるように。
「愛さんちょうど良かった。すいません、何か亜紀さん具合悪いみたいで、送っていきます」
「えー!大丈夫?私が送って行こうか?」
「いや、いいっすよ。俺も明日早いから先に抜けるつもりだったんで。
すいませんがみなさんによろしく言っといてください」
「うん、わかった。亜紀、お大事にね。田畑、よろしく!」
「…うん」
「任せてください!」

田畑は荷物を取るとそのまま私の手を取って、タクシーを呼びとめ、乗り込んだ。


失恋の夜の最初へ 失恋の夜 2 失恋の夜 4 失恋の夜の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前