いつかの紙ヒコーキ-9
俺は病院に着いた。
そして優里の元に行く。
優里には点滴や呼吸器が付いていた。
でもいつもと変わらない顔、ただ、きれいなままのその手は、すごく冷たかった。
俺は、未来へは進みたくなかった。この時だけは、未来へと進んでしまったら優里と二度と会えなくなってしまう。だから手を強く握り締めて「今」を一生懸命に感じようとした。
「優里、覚えてるか?初めておまえと話した時、赤いお守りが、川に落ちたっていって、人目も気にせずにに川に入ってたっけな、でもお守り、土手に落ちてて、お前頭良いくせに意外とおっちょこちょいなんだなって思った。」
俺は涙ぐみながら語り掛ける。
「それから次の日、屋上に来たんだっけ。
俺あの時、すごく嬉しかったんだ、本当はずっと前からお前と話したいと思ってたから。」
俺の頬を涙が伝う。
「それから屋上で良く話すようになって、それでお前があの時、俺の傷を埋めてくれたんだ。俺を抱き締めてくれたんだ
なあ覚えてるか?」
俺の目にはもう優里は映っていなかった、ただぼやけた白黒の世界だけが広がっていた。
「そんで付き合うようになって、もっとたくさん一緒にいれるようになったな。一緒に笑ったり泣いたり怒ったり、時には喧嘩したり。
お前がいてくれたから、俺は・・・
そして卒業式の日、あの紙飛行機覚えてるだろ?あんな風に、二人で飛んでいこう、これからも。
だから・・・だから目を開けろよ!!」
俺は叫んだ。
でも無常にも、優里の心停止を知らせる"ピーッ"という音が響いた。
力の無い手を握り締めながら、俺にはまだまだ話したいことがたくさんあった。
でも最後だから、自分の中で何よりも言いたいことを言った。
涙を拭いて
「ありがとう」と
その時だった、締め切られた部屋の中に、吹くはずのない風が吹いた。
そして温かく、優しく俺たちを包むこの風は・・・まるで
「ゆ・・う・・すけ君」
「優里?」
ああそうか
きっと俺は、これから飛び続けられるのだろう。
そして飛び続けるのだろう。
君と
あの日の紙飛行機の様に、いつまでも
なぜならあの日の風は、今もここにあったのだから。
Fin