いつかの紙ヒコーキ-7
「優里」
「やっぱりここだったんだ」
ほほ笑みながら俺の隣に並ぶ優里。
「卒業・・・しちゃったね」
「卒業しちゃったな」
「何か、少しだけ寂しいね」
優里は切なそうに校庭の外を見る。
「優里」
「ん?」
「ありがとな」
いてくれて、ここにいてくれて
「どうしたの急に?」
優里は照れ臭そうに俺の肩を叩く。
「そうだ」
俺は思い出したように言う。そしてバッグの中からあるものを取り出した。
それは一枚の紙、不思議そうに見ている優里を余所に、俺はその紙を折っていく。
そしてすぐに紙飛行機が出来上がった。
「紙飛行機?」
「これはさ、親父が俺に教えてくれた唯一のものなんだ」
「勇介君の・・・お父さんが」
「親父、紙飛行機好きでさ、一枚のペラッペラな紙が形を変えるだけで空を飛ぶんだぞって、ガキの頃から良く一緒に遊んだんだ。」
「そうだったんだ」
「最後に、この屋上から飛ばそうかと思って。
今ならどこまでも飛んでいくって、そんな気がするから」
俺はそう言うと紙飛行機を飛ばした。
思い出も、ずっと逃げてた弱い自分も、未来への希望と一緒に、色々なものを乗せて飛ばした。
すると後ろから風が吹いた。
俺たちを包み込むように温かくて優しい風。
あの紙飛行機もきっと、その風に包まれたんだろう。
どこまでも飛んでいった。
どこまでも、いつまでも。
「おーい吉田、時枝ちゃん、行こうぜ。」
「みんな行っちゃったよ」
すると同じクラスの岡野正と長谷部香が、クラス会に行くのを急かしに来た。
俺と優里は顔を合わせて軽くほほ笑み合った。
「ああ、今いく」
「ごめん待たせちゃって」
そして卒業から一週間が過ぎた。
俺は部屋で一人、公務員試験の参考書と向き合っていた。
あれからみんなどうしてるかな、とか、昨日会ったばかりの優里のことを考えてしまったり、気晴らしに紙飛行機を折ったりもしたけど、何とか集中して勉強をしていた。
「勇介」
すると突然母の呼ぶ声がした。
「なんか用?」
「電話だよ、勇介に」
家の電話機に電話なんて誰だろうか?
不審に思いながら受話器を取る。
「はい、はい・・・・・え?はい・・・はい、わかりました、すぐに行きます。」
俺は受話器を下ろし、ジャケットを上から着てすぐに出ていった。