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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第14話・サイレントマインド〜静かなる想い》-8

「楓、大丈夫?」
「ああ、何とか…痛っ…」

立ち上がろうとしたが、足首を押さえて蹲る。

「捻ったみたいですねぇ」

朧が近付いて楓の足首を触る。楓は痛そうに顔をしかめる。

「困りましたね…これじゃあ、歩くのは無理です」

そう言うものの朧の口調は何処か楽しげに聞こえる。

「これは疾風さんが責任を持って連れて行かないと♪」

にんまりと笑いながら朧は疾風の方を見た。

「はい!私、お姫様抱っこ希望♪」
「ちょっと…」
「仕方ないだろ。小鳥遊は歩けないんだから」

友人達も楽しそうである。
疾風はしばし考え、楓の前を背を向けて跪いた。

「おぶってくよ」
「えっ…」
「え、じゃなくて、歩けないんだろ?ほら、手を首に回して」

楓は促されるままに首に手を回した。

「ヨッ…」

疾風は少し勢いをつけて立ち上がった。

「は、疾風…その…無理せぬとも…重いだろうし…」

顔を赤らめ、ボソボソと呟く。

「まあ…軽くは無いけど…」

楓は無言で疾風の頭をはたいた。

「…何するのさ?」
「女心の判らぬ奴め…」
「疾風さん、そこは嘘でも軽いって言うんですよ♪」
「そういうもんですか…?」

その問いに朧ではなく、希早紀が壊れたように激しく首を振る。

「そういうもんです!いい?疾風君!女の子は繊細なの!ちょっと、お菓子を食べ過ぎただけで…こう…二の腕とか、お腹とか…うぅ…考えただけでも恐ろしい…」

思わず身震いする希早紀。
乙女の天敵は余分な肉と体重計である。

「以後、気をつけます…」
「もう…」

呆れたように言うと楓は疾風の首に回した手に力を込めた。
見掛けよりガッシリとした体格。
肩幅も広く、楓はその背中に身を委ねた。

「……疾風の背中は広いな……」
「そう?」

誰にも聞かれないように小さな声で囁く。

「…それに…何やら…暖かい…」

耳にかかる吐息に疾風の顔も紅くなる。

「……行かないの…?」

そんな空気を打ち破るように、刃梛枷が言った。

「じゃあ、先に行かせてもらうから」
「ああ、鞄は俺に任せろ」
「頼んだ」

疾風は楓を背負いながらも、ふらつくこと無くしっかりとした足取りで階段を降りていった。


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