刃に心《第14話・サイレントマインド〜静かなる想い》-6
「どうもありがとうございます♪月路朧です♪」
はぅ〜っと目尻をだらしなく垂れ下げる。
そして、同じく右手をズボンで擦るとギクシャクとした動きで差し出す。
朧はその手を優しく握り返す。
「これからもよろしくお願いしますね♪」
「は、はい!こちらこそ!」
手を放した彼方は未だ夢心地で放心状態。
「シイタケ…女の子の手って柔らかいんだなぁ………♪」
「良かったな」
「俺…死んでもいい…♪いや、むしろ…先輩のためなら死ねる…♪なあ、男なら判るだろ?この気持ち♪」
「ウゼェ」
肩を組もうとする彼方を振り払う。
「何をやっておるのだ…」
「それより風が強くなってきたね…」
「くそ…聞こえねぇ…」
ドアの隙間から唸りをあげて風が流れ込む。
「ふむふむ…なるほど」
だが、その中で朧一人だけ納得したような顔をしていた。
「判るのですか、朧殿?」
「はい♪読唇術を少々嗜んでおりますので♪」
「読唇術って嗜むもんか?」
「で、あの…疾風達は何と…?」
「大丈夫ですよ♪お二人が心配しているようなことではありませんから♪まあ…私個人としては残念ですけど…」
「それで、具体的には…?」
「それはちょっと…」
朧は少しだけ表情を曇らせて希早紀達を見た。
その仕草だけで、裏のことだと二人は気付いた。
「あの事を謝ってるみたいですねぇ…」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「で、話って?」
一方、ドアの向こう側のことなど知らない疾風は率直に切り出した。
「……貴方に聞きたいことがあって…」
刃梛枷はすぐに口を開いた。
疾風はそれを聞きながら、ちょっと風が強くなってきたなと思った。
「……私は貴方を傷つけたのに………どうして貴方は私と話してくれるの…?」
「へっ?」
思わず、疑問に疑問で返してしまった。
「……恨んでもいいはずなのに貴方は私に優しくしてくれる………その理由が判らなくて…」
疾風はどうしたもんかと思い、頬を掻いた。
刃梛枷はじっと動かない黒瞳で疾風の顔を見つめている。
「えっと…前も病院で言ったと思うんだけど、俺は気にしてない」
「……でも、普通なら…」
「俺は普通じゃないから」
刃梛枷の言葉を遮るように疾風は言った。
刃梛枷の瞳が少しだけ大きくなる。
「それに理由なんかない。俺が話したいと思うから刃梛枷と話しているわけで恨んでるなら、そもそも此所まで来ないよ」
刃梛枷は俯き気味に顔を伏せた。