投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

闇よ美しく舞へ。
【ホラー その他小説】

闇よ美しく舞へ。の最初へ 闇よ美しく舞へ。 21 闇よ美しく舞へ。 23 闇よ美しく舞へ。の最後へ

闇よ美しく舞へ。 5 『雨 〜少女二人、昔語り』-4

「ヨネちゃんが泣いているよ」
 突然目の前に現れた女の子が、大男の振り下ろした鶴嘴(つるはし)を素手で受け止めると、そんな事を口走っていた。
「うわぁっ!」
 大男も一瞬驚き、尻込みをする。
「おめえ! お佳代でねーか!」
 別の男が叫んだ。
 どうやらその少女、先ほど鉄砲水で流された野次郎の娘、『佳代(かよ)』の様である。
「馬鹿なこと言ってねーで、早よどくだ! お佳代!!」
 佳代に鶴嘴(つるはし)の先を掴まれた大男は、そんな彼女の手を払い退け様と、腕に力を入れて引っ張っては見るものの、鶴嘴(つるはし)は、まるで岩にでも食い込んだかの様にピクリとも動かない。たかだか10歳の少女の何処に、そんな力が有ると言うのだろうか、大男は自分の眼を疑った。そればかりか、お佳代は右手で鶴嘴の先を持ったまま、もう片方の腕を大きく突き出すと、その勢いでもって大男すら跳ね飛ばす。
 押されて尻餅をついた大男は、丸で狐にでもつままれたかの様に眼をかっ広げ、驚きの表情に恐怖すら浮かべる。
 堰(せき)の上で仁王立ちして、黙って男たちを睨みつける佳代。そんな佳代の両肩を鷲掴みにして、別の男が。
「遊んでねえでさっさとそこを退くだ! 早よのけっ!!」
 と、彼女を堰の上から退けようともした。が、やはり佳代の身体は、まるで足が地に張り付いたかのごとく、大の男が押せど引けども動かない。
「どうなってるだぁ!?」
 男達は首を傾げて、小さな佳代を見詰めて驚くばかりである。
「そう言えばお佳代坊、おんめぇ鉄砲に流されたって聞いたども、平気なだがや」
「おんめぇ本当に、お佳代だがか!?」
 男達は、あり得ない力を持った小さな女の子を訝しみ。一方ならぬ異様な気配に、後ず去る者すら居た。
 すると。
 佳代は大男から奪い取った鶴嘴(つるはし)を、大きく振り回し、そのまま川上へと向けて、勢い良く放り投げた。
 投げられた鶴嘴は音を立て飛んで行くと、川岸に有った大きな杉の木に当たり、根こそぎそれをなぎ倒し、水嵩(みずかさ)を増し、激流となった川の流れに乗って流れ出す。そして、たちどころに堰に突き刺さると、流れ着いた流木を幾つも引っ掛けて、更に堰を高くした。
 佳代は男たちに向かって叫んだ。
「ヨネちゃんが泣いているよ! 雨を降らせたのに、誰も誉めてくれないって泣いてるよ!!」
 同時だったであろう。佳代がそう言うと雨は益々激しくなり、風が吹き荒れ、最早誰一人として立っては居られない程であった。
「おおおっお佳代ぉ! おめー何しただ!!」
「佳代は鉄砲水に流されたって聞いたぞ! こいつぁ佳代じゃねえっ! 物の怪(もののけ)だ! みんな早よ逃げるべえっ!」
 堰を切りに来た男たちは皆、佳代の不思議な力に腰を抜かし、逃げだす。後には佳代だけが、堰の上にぽつんと残されていた。
 そんな村人達の有様を見ながら、佳代は胸に手を当て、祈るように呟いた。
「人間とは勝手なものだな。自分達の都合だけで人を神にも、化け物にもする。全く持って愚かな生き物だ」
 そう言う佳代の瞳は、怪しい金色の光を放ち。
 そんな佳代の声が聞こえるのか否か、ヨネは御神木の上にその身を晒しながら。
「まっこと、本当よのう」
 そう呟き、笑い。そして彼女の瞳もまた、不気味な金色の光を放っていた。


 間もなくして、村は押し寄せた大水により水没すると、生き残った者は一人も居なかったと言う。


闇よ美しく舞へ。の最初へ 闇よ美しく舞へ。 21 闇よ美しく舞へ。 23 闇よ美しく舞へ。の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前