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闇よ美しく舞へ。
【ホラー その他小説】

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闇よ美しく舞へ。 5 『雨 〜少女二人、昔語り』-3

 あれから三日が経ち、五日が経ち、そして十日が経った。
「雨だ! 雨が降って来たぞ!!」
「雨だ! 雨だあー!」
 久方ぶりの天の恵みに、村人達は皆喜んだ。そして誰もがヨネに感謝した。がしかし。
「あれからもう一月になる。このままじゃぁ稲が育たねぇ……」
 ヨネを神様に捧げ、待ちに待った雨は降って来たものの、今度はその雨が降り止まない。
「昨日見に行っただがぁ、川上の堰(せき)が水で一杯だ。あれが切れて鉄砲が起こったら、4〜5軒は流されるだ」
 村を横切る川の上流には、山から切り出した木材を流して下流の街に送るための、所謂、人工鉄砲水発生装置とも言うべき、ため池があった。その貯水量は微々たるものだったが、それでもそこの水をせき止める堰(せき)が決壊して、一気に流れ出したら、川岸の農家を皆押し流すには十分である。
「困ったなぁ。どうしたらいいんべか!?」
「鉄砲が起こる前に、堰を切ったら良かんべ!」
「んただ、下(しも)の堰も切らねば、今度は田んぼさ水に浸かるべ!」
「なら下(しも)の堰も、今のうちに切っておくだ!」
 山深い谷の集落にとって、増水した水は脅威であった。万が一にも、このまま雨が上がらず、川の水が増水を続ければ、今度は村全体が水に押し流されかねない。誰もが真剣なのは、言うまでも無い。
 そんな時だった。
「大変だ!! 上の堰が切れて鉄砲が起きただ! 五太郎んとこと、野次郎の家が流されただ!!」
「なんだとーー!!」
 恐れていた事が起きてしまった。集会場へと飛び込んできた男の話に、村長は無論のこと、居合わせた全員が身を震わせた。


「お鷺(さぎ)っ! おさぎーー! 貫太郎っ! かんたろーー!!」
 恋女房の亡骸に縋(すがり)つき、号泣する野次郎。その側(からわら)で、幼い長男が息を引き取って居た。
「野次郎っ! 娘はどうした! お佳代(かよ)はどこさ行っただっ!!」
 駆けつけた若い衆の声も、聞こえているのやら、居ないのやら、野次郎は泣きながら首を横に振るばかりである。
「しっかりするだ野次郎っ! お佳代坊はまだ生きてるかもしれねーべっ!!」
「わかんね〜〜! 水さ来てあっと言うまに去らっていっちまっただぁ〜! お佳代ぉ〜…… お佳代〜〜」
 どうやら娘もまた、突然迫り来た鉄砲水に捲かれて、行方不明の様子であった。


 その頃、村の下にある堰では。
「村長の命令だぁ。村さ守ため、此処の堰さ開けるだとよ」
「そんな事して平気だか? 水さ溜めらんなくなったら、また困るんでねーか!?」
「その前に村が水に呑まれたら、ひとたまりもねえべ」
「……おらぁ〜思うけんども…… こんげに雨がふるちゅうは、おヨネの祟り(たたり)でねえべか」
「ばかこくでねえっ! おヨネはただのわらしんぼだっ! そんげに祟りだの恨みだのねえべよっ! 馬鹿こいてねえで、さっさと堰さ開けるだっ!!」
 下の堰とは、早い話がダムである。V字谷の両岸がら材木やら大石を積み上げ造られた、言わば一種のダムである。水が少ない時はここに溜まった水で田畑を潤し、水が増すとその水門を外して、水を捨てていた。
 こう毎日雨が続いては、最早これすら災害に結び付き兼ねない。所謂床下浸水ならぬ床上浸水、満水にでもなれば、まさしく村全体が水没しかねなかった。
 堰の上に集まった村人は、各々に鍬(くわ)や鋤(すき)でもって堰の土手を崩して行く。しかしである、崩せど崩せど押し寄せる土石流が更なり堰に積み上がり、益々堰を高くする。
 それでも、何とか堰の一部でも崩せれば、水の勢いでもって口が広がるだろうと、一人の大男が力一杯鶴嘴(つるはし)を振り下ろした。その時である。


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