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■LOVE PHANTOM ■
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***君の青 D***-3

 僕は彼女の小さな背中が完全に見えなくなるまで、その場に立っていた。悲しみはあった。こんな形で雫への気持ちが途切れるのかという悔しさにも似た悲しみが。けれど、別れに対するそれはそれほど沸いてはこなかった。理由はちゃんとある。彼女が・・・雫が最後に残した言葉、あれは確かに約束だった。だから、またねと言ったのだと思う。
 きっと彼女はもう一度ここへくる。僕に青い鳥の本を返すために。  
 
 「まったく、何年読んでるんだよ。青い鳥」
 僕は静かに瞼を閉じて、呟いた。
 懐かしくもあり、少しだけ苦い思い出でもある夢から覚めて何故か口元には笑みが
こぼれている。
 「突然いなくなったら、今度は突然現れやがって」
 苦笑いしながら、僕はそっと雫の頬に触れた。
 「消えてなんか、なかったんだな」
 バラードが流れている部屋で、僕は一人、ヘッドボードへ寄りかかりながら天井を見上げた。月明かりで、僕よりも大きな影が向こう側の壁にくっきりと映る。
 「この想いは、凍っていただけだったんだ。お前を待って、お前がくるのをずっと待って、凍っていただけだったんだ」
 僕は、はなをすすった。今夜、この場ではっきりと分かった。僕は雫に惚れていた。昔と変わらず、何も変わらず、彼女にべた惚れだったのだ。
 ふと、耳を傾けると、一枚目のCDから二枚目にかわっていた。 ロクセットの”church of your heart”だ。 そういえば、この曲は雫のお気に入りだったはずだ。
 僕は天井を見上げたままで、ゆっくりと瞼を閉じた。瞼のうらのスクリーンが、中学の頃の彼女を鮮明に映し出す。学校帰り、真っ赤な夕日に照らされた川辺を歩きながら、この曲をウォークマンで聴いては下手くそな英語で口ずさんでいた彼女の姿が、今はこんなにも近い。


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