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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-99

 バシッ! バシッ! バシッ!

「おお、おお、おお!」
 左右に打ち分けられた鋭い当たりにも、彼は機敏に反応して見せた。
 傍から見ればボールを正面で無理なく簡単に捌いているようにも見えるが、岡崎の放つ打球は普段のそれよりもはるかに強く打ち放ったものであり、また、左右の振幅も大きい。それにも関わらず、大和は“正面”でしっかりとグラブにゴロを収めている。
 ゴロを捌くときの基本は、どんなに鋭く自分の左右にボールが飛んだとしても、必ずその正面で打球を迎えることだ。大和の守備は、それを遵守している。フットワークの良さはもちろんのことだが、ノッカーである岡崎のバットの軌道から、飛んでくる打球の方向を先読みしていなければできる芸当ではない。
「すごい……」
 嘆息しているのは、桜子である。一緒に参加した草野球の大会では、その比類なき打力がなによりも印象的だったが、いま目の当たりにしているフィールディングも、まるで蝶の舞うように華麗なものであった。
(甲子園の恋人……)
 かつて異名をとった、その理由がよくわかる。投手としてだけではなく、彼はいち野球人として群を抜いた実力を持っている。
 雄太たちにも、大和のことをそう紹介しようとしたのだが、それは彼に押し留められていた。もしもそれを口にしていれば、雄太は一も二もなく大和のことを認めていただろう。
 だが、“甲子園の恋人”として世間を沸かせた本人であると気づかなくとも、雄太の目にはしっかりとその実力の凄みが焼きついていた。
「こいつは、すげえ!」
 “経験者”というところではない。この大学に進んできたことが信じられないほどの男であると雄太は大和の実力を量り、そして認めていた。
(俺たち、もっと強くなれるぞ!)
“自分よりも凄いヤツだ”と感じた時、少なからず利己的な意識が混ざる“羨望”よりも、真っ先にチームが強くなるという“希望”が浮かんだ雄太の度量は、やはり大きい。
「草薙、送球はできるのか?」
 ノックの手を止め、大和に尋ねる岡崎。彼もやはり、右肘の傷跡を気にしている。
「大丈夫です」
 それを証立てするように、
「蓬莱さん、行くよ!」
「は、はい!?」
 言うや、手にしていたボールを桜子に向かって投じた。
「わっ……!」
 不意を打たれた桜子ではあったが、すぐに我に帰り、大和から送られてきた球を捕る。

 パシッ!

 と、これもまた小気味のいい音を立てた。スナップスローというのに、伸びがある。
(さすが、逸材といわれた男だ)
 距離的には、桜子の位置はサードからファーストのそれに等しい。
「屋久杉、草薙はサードにしないか?」
 岡崎はショートに廻る自分の後釜を、大和にさせたいのだろう。フィールディングには全く問題はなく、唯一の不安材料は痛めていたという肘の状態だったのだが、送球を見る分には問題がなさそうだ。
「ああ!」
 雄太も既に、そうと決めていたらしい。
(よかった)
 かくも簡単に守備の穴が塞がったことに、傍らで彼らを見守っていた品子は安堵の息を洩らしていた。
(後は、監督ね……)
 苫渕の存在は、例え彼が野球に精通していなくても、野球部には大きな拠所になっていた。その代わりになる“長見エレナ”という女性への期待と不安に今度は意識を移し、なにかと忙しい胸のうちで今日を終えることになる品子であった。


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