『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-80
「わたしは初めてだったけど、龍介さんを胎内(なか)に感じた時、とても気持ち良かった。“最初は痛くてたまらない”って聞いていたけど……確かに、入った瞬間は痛かったけれど、それ以上に気持ちが良かったの。きっと、オナニーばかりしていたから、敏感になっていたんでしょうね。二度目からは、もう狂いそうなぐらい気持ち良くて、オナニーなんか比べ物にならないほど感じることができたわ」
それが、自慰をしなくなった大きな理由だという。
「桜子の心も、きっと大人になろうとしているところなのよ。それに体が敏感に反応してしまって、性の衝動が処理しきれなくなっているのね」
「そ、そうなのかな……」
「好きな人ができると、そうなるものよ」
「!」
「惹かれた異性に性を催すのは、その人の遺伝子を継いだ子孫を二人で残したいと、本能が感じているからなの。人だって、動物なんだから」
「お、お姉ちゃん……」
妙に哲学的な由梨である。だが、説得力があった。
「だから安心して。あなただけが、エッチなわけじゃないのよ」
「そ、そう?」
「ええ。ひょっとしたら、“彼”も龍介さんみたいに、あなたのことを考えてひとりで励んでいるかもしれないじゃない」
「………」
想像しかけてやめた。また大和のことを思うと、体が熱くなってしまうと思ったからだ。それに、男子がどうやって自己の性を自律的に処理するのか、よくわかっていない桜子は、そのビジョンを描くための情報にも事欠いていた。
「だから、大丈夫」
「う、うん。ありがとう」
姉の微笑みに、桜子は安心を覚えた。スッキリした気持ちが心を爽快にし、思い悩んでいた事柄が彼女の中で一応の消化を見せていた。
「さてと。話が、長くなっちゃったわね。洗わなくちゃいけない物、あるんでしょ?」
「あ、うん……あの……まずは、パンツかな……」
股を広げて、陰毛の翳りが透き通って見えるほど透明になってしまっているショーツを姉に見せた。綿製で厚手のそれが、そういう状態になっているのだ。尋常ではない。
「う〜ん……シャワーを浴びていらっしゃい。その方が、早そう」
「あ、あはは……あたしも、そう思う」
それだけでなく、体中がいろいろなものでベトベトになっている。
「洗濯物、籠に入れておくね」
「そうしなさい。湯冷めしちゃいけないから、きちんと髪は乾かすのよ」
「は〜い!」
姉の言葉に従うように、桜子はすぐに風呂場へ向かうと、身につけていたものを全て取り払って籠に放り込み、熱めに設定したお湯を全身に浴びて、その身を清めた。
(まだよくわかっているわけじゃないけど……)
石鹸を泡立てた自家製へちまタワシで肌を擦りながら、桜子は思う。
(多分、あたし……彼が好き)
でなければ、大和のことを思って心を乱したりはしない。出逢ってから日は浅いが、既に桜子の心には、あの童顔も可愛らしい少年の影が棲みついている。偶然とは思えないほど重なってくる縁を通じて、その気持ちは一気に形を成したといってもいい。
(草薙君のことが、好き)
その想いがはっきりと形作られた瞬間、またしても太股の奥に熱気を感じた桜子。しかし今度は、その衝動に対して何のためらいを見せることもなく、シャワーを使って二度目の手淫に耽っていた。
いつもなら果てた後は、どうにもならない索漠とした感情が残るばかりであったが、今回の自慰はそんなこともなく、何か満たされたような心地よい浮遊感が存在していた。由梨の話を聞くことで、色々と整理がついたのだろう。“自慰”にどちらかというと罪悪感を持ちながら行為に及んでいた桜子だったから、これほど前向きな気持ちで行為に没頭できたのは初めてだった。
そして、大和への気持ちがはっきりとした輪郭を得たことも、桜子の精神に大きな影響を及ぼしていた。自慰の最中、彼女が思い描いていたのは、大和に優しく愛撫され、そして、自らの胎内に彼を迎え入れ、共に頂を駆け上る……そんな健康的なビジョンであった。