『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-79
そして、ふたつめが“小学校5年生の時に、おもらしをしてしまった(しかも、大きい方)”ことである。それは由梨にも、直接的な原因があった。
急に腹を下して桜子がトイレに駆け込もうとした時、ひとつしかない和式のトイレが、手淫に狂う由梨に占領されたことでなかなか空かず、我慢しきれずにとうとう洩らしてしまった過去がそれだ。小学5年生ともなれば色々と背伸びをして気取る部分も出てくるから、自制が利かず幼児のように“おもらし”をしてしまえば、それは死にも等しい恥辱だと感じても当然だろう。故にこの一事は、桜子の“三大恥”における第2番目の項目となっている。
「そうねぇ……そんなことも、あったわね」
「あ、う、うぅ……」
もっとも、桜子が洩らしたことで汚れてしまった床や、彼女の下着の後始末は由梨がしたので、その“おもらし事件”は彼女も良く知っていた。
「あのときは、本当に桜子に悪いことをしたと思ったわ。だから、トイレでだけはオナニーしないでおこうって、決めたのよ」
「〜〜〜」
桜子は、“やぶへび”とばかりに苦虫を噛み潰したような顔つきをした。確かにあれ以来、由梨がトイレに長く篭ることはなくなったが、だからといって桜子の恥辱に満ちた過去が消えるわけでもない。
“三大恥”のうち残るひとつも、シモに関する話なのだが、桜子にとって最大級の恥部といってもいい話だから、これは後に取っておこう。
それじゃあ、由梨さん。続きをどうぞ。
「とにかくそれぐらい、わたしはオナニーに夢中になっていたの。今の桜子みたいに」
「や、やっぱり今でも、してるの?」
「ううん。今は、全然していないわ」
「そ、そうなの?」
それほどまでに夢中になった行為を、やめられるものなのだろうか?
「だって、龍介さんがいっぱい、愛してくれるから……」
由梨は、今度は満たされたように恍惚とした表情となった。
「わたしね、龍介さんに見られたのよ」
「え?」
「オナニーしてるところ」
「!?」
姉らしからぬ失態である。
「龍介さんのシャツを洗っている時にね、催しちゃって……洗濯場で、始めちゃったの。そうしたら……」
荒い息づかいを聞きつけた龍介が、由梨が体調でも崩したのかと心配し慌てたように洗濯場に入ってきたところ、それを見られたのだという。買出しに出たとばかり思っていた龍介が、まさか家に居たとは知らず、自慰を始めてしまった由梨の文字通り“失態”であった。
「さすがにあの人、困った顔をしていたわ。わたしも、とても恥ずかしくて、泣き出してしまった。その時、あの人、わたしを慰めるためになんていったと思う?」
「………」
無言で首を振る桜子。そういえば、二人の本当の馴れ初めは聞いた覚えがない。
「“自分も、お嬢さんのことを考えて、したことありますのや”って」
くつくつ、と由梨は抑え切れないように吹きだした。
「顔を真っ赤にして、真剣な顔でそう言うの。本当に、正直な人よ。でも、わたし、おかげで素直な気持ちになれたの」
「………」
「龍介さんのこと、好きだって……その時に、やっと言えたの。あの人も、わたしのこと、好きだって言って、優しく抱きしめてくれたから……やっぱり泣いちゃった」
ノロケが入ってきた。しかし桜子は茶々を入れずに、由梨の話に聞き入っていた。
「気持ちが通じれば、その、恥ずかしいところを見られた後だから……」
龍介と由梨は、そのまま間を置かずに、肌を許しあい、熱く深く愛しあった。