投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 343 『STRIKE!!』 345 『STRIKE!!』の最後へ

『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-65

 2番の植田も、フルカウントまで持ち込んだものの、平凡な内野フライに打ち取られた。
 1番も2番も、腰の回転を生かしきっていない、まるで撫でるようなスイングだったので、その辺りに大和は双葉大学の選手層の薄さを見た。
(でも、あの人は……できそうだ)
 3番打者は、守備の時もいい動きをしていた岡崎である。左打席に入った彼のバッティングフォームは、腰周りが非常に安定しており、そして、上半身と下半身のバランスが一定している。構えそのものはオーソドックスだが、それゆえに、どのコースに投じられても均等なスイングスピードで対応できるだろう。
「岡崎先輩! ガンバレ!!」
 どうやら桜子は、彼のことも知っているらしい。送る声援の響きに、知己に対する色合いが含まれているのを感じた大和は、その辺りのことを訊いてみたくなった。

 キン!

「あっ」
 となりの桜子に声をかけようとした矢先、心地よい音が響いた。初球を叩いた岡崎のバットが、綺麗な打球をセンター方向に飛ばしたのだ。
 それは、野手の前でグラウンドに落ち、二回ほどバウンドしてから中堅手のグラブに納まる。絵に描いたような、センター前ヒットである。
(思い切りも、いいんだ)
 テンポ良くアウトを重ねてきた相手投手のリズムが、それゆえに単調になったのだろう。それを逃さず、しかも初球を狙う辺り、かなりの実力者であることを大和は確信した。
「よっしゃあ! 岡崎、ナイスヒット!!」
 ウェイティングサークルで吼えるのは、4番の屋久杉雄太だ。何度か素振りを繰り返してから、彼もまた左打席に入る。
(………)
 3番打者の岡崎には、器用さを感じた。そして、この4番打者の雄太には、力強さを感じた。そのヘッドがやや斜めになるバットの握りが手首の強さを表しており、地面に張り付いたような足腰の重量感は、そこから繰り出されるスイングの鋭さを容易に想像させた。
 いろいろ訊きたかったことは、今は留め置いて、雄太の打席に集中する大和。なにしろ桜子が、打席内の雄太に釘付けになっている状態だから、声をかけることが憚れた。
「!」
 セットポジションから、相手投手が初球を投じた瞬間、一塁走者の岡崎がスタートを切った。
(スチールか!)
 思い切ったことをする、と大和が思うより先に、

 キン!

 と、これまた響きの良い旋律がグラウンドに生まれた。
「打った!」
 桜子の声音には、喜色が含まれている。走者に気を取られた大和が打球を視線で追いかけると、それは一塁線のライン際を痛烈に転がっており、打席内の雄太が思い切り引っ張ったのだということがわかった。
(長打コース! それも、エンドランか!)
 一塁手と、ベースの脇をすり抜けるようにして雄太の放った打球は外野へ到達する。既に走塁を始めていた岡崎は、俊敏な脚の運びで次々と塁を駆け回り、相手の外野手がようやくボールに追いついて、内野に投げ返していたときは、もうホームに向かって滑り込んでいるところだった。
 そして、打った雄太も、悠々と二塁に達していた。
「1点、取った!」
 桜子の歓喜を混ぜ合わせ、双葉大学のベンチが大いに盛り上がる。入れ替えのかかった大事な一戦で、先取点を奪ったのだ。試合の主導権を握り、優位に立つためには、当然必要となる一事である。
「よっしゃ、よっしゃ!!」
 二塁ベース上で、拳を握り締めている雄太。まさかこんなに早く、1点を取れると思っていなかったのか、その喜びは非常に大きい。彼も、この試合における先取点の役割が、どれほど大きなものか充分に理解していたからだ。
 だから、速攻に出た。その結果が、ヒットエンドランという作戦であったのだ。2部リーグで敵なしだったという勢いを、そのままぶつけてみたといっても良いだろう。
 作戦は、見事に決まった。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 343 『STRIKE!!』 345 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前