『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-63
大和と桜子が三塁側の内野席、その一番手前に陣取ったとき、期せずして守備練習を終えた双葉大学軟式野球部の面々がベンチに戻ってきた。
「よう! 来たか、桜子!」
雄太が長身の桜子をすぐに見つけ、腕を振る。が、ややあってその動きは止まった。
「なんだ、桜子。隅に置けねえじゃねえか。彼氏同伴とはよぉ!」
彼女のとなりに、大和の姿を確認したからだ。
「屋久杉先輩! 彼は、友達!!」
「ははは、そういうことにしておくぜ」
“そういうこと”にしていないのは、緩みきった雄太の頬が証明している。
「オッス!」
雄太の声は、大和にも向けられる。言葉を返すにはやや距離があったので、大和は慇懃な会釈を返事の代わりとした。桜子や雄太のように、グラウンド中に響く大声をだすのは、さすがに彼も躊躇われたのだ。
「みんな、頑張ってね!!」
桜子が、雄太ばかりではなく、双葉大学の面々にも声援を送る。雄太以外は、何処となく固くなっていた彼らの雰囲気が、その声援によって幾分和らいだものになった。本当に彼女は、行く先々に陽気を運ぶ。
「よっしゃ、行くぜ!」
主審がホームベース手前で整列し、手をかざして両チームを呼ぶ。それを確認した雄太は、気合を乗せた声でチームメイトに活を入れ、その面々を率いて小走りに駆け出した。
「………」
その闊とした様子は、さすがにチームを結成しただけのバイタリティに溢れている。桜子の義兄・蓬莱龍介に対して感じた器の広さを、雄太の背中にも感じる大和であった。
「礼!!」
審判の声に従うように、整然と並んだ両チームが波を作った。
この試合の結果は、勝者と敗者にそれぞれ“天国と地獄”が用意されている。大袈裟な表現の気もするが、気負いたって相対する各大学の強張った表情を見れば、そう言いたくもなるものだ。
「双葉は……後攻めか」
バックスクリーンの電光掲示板に各チームのラインナップが、球場職員のアナウンスと共に次々と提示されていった。それを追いかけながら、大和は双葉大学のオーダーに目を凝らしていた。
【双葉大学】
1番:栄 村(中堅手)
2番:植 田(遊撃手)
3番:岡 崎(三塁手)
4番:屋久杉(投 手)
5番:若 狭(一塁手)
6番:吉 川(二塁手)
7番: 浦 (左翼手)
8番:留 守(捕 手)
9番:本 間(右翼手)
「あの先輩さんは、4番でピッチャーなんだね」
それを見ても、双葉大学にとって彼は大黒柱である。それも、“大幹”だ。
「屋久杉先輩は、高校の時も軟式で野球をしていたの。それで、全国大会に出場したこともあるんだよ」
「そうなんだ……すごいな」
大和は真にそう思った。
高校野球といえば、硬式で行われる甲子園での全国大会が最も名高い。しかし、軟式野球にも相応の大会は存在し、さらに、甲子園のように一県・一代表というわけではなく、それよりも枠の大きい各地域別の地方予選となるため、予選を含めれば勝ち抜かなければならない試合は、下手をすると甲子園大会の比ではない。
そういう試合を勝ち抜いて、全国大会の場に立った経歴を持つというのなら、双葉大学のマウンドに立っている屋久杉雄太は、相当の選手であるということだ。