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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-62

「やっぱりここにいたか!」
「六文銭君……」
 青年がバツの悪そうな笑みを浮かべ、自分の名を呼んだ男の方を見る。
「……どうした? また、具合が悪くなったのか!?」
 肩を怒らせながら、骨組みのしっかりした体格からは想像もつかないほど機敏な動きで、その“六文銭”某が、青年の側に寄ってきた。
「まったく……昨日の今日だと言うのに、うろちょろするからだ!」
 言葉尻は激しい。しかし、その顔にははっきりと心配と安堵が入り混じった表情が滲み出ていて、強面の造りからは想像もできないほど、情に温かいものを持っていることが伝わってくる。
「大丈夫なのか?」
「もう落ち着きました。彼らのおかげで、すぐに日陰にくることもできましたから…」
 そこで初めて、六文銭という男は大和と桜子のほうに意識を移した。仏頂面でへの字に口を結びながら、しかし、その口が開いたとき、
「すまんな、世話になった」
 と、素直な言葉が出てきた。剛直さが前面に出てくる体型と顔つきそのままに、その性情は真っ直ぐで歪みがなさそうだ。
「もう、大丈夫です。連れも来ましたから。デートの邪魔をして、申し訳ありません」
「あ、いえ……」
 軽口が出るほど、青年は気分がよくなったようだ。
「よかったら、名前を教えてくれますか?」
 立ち上がり、脚の方向を変えようとした大和を青年が呼び止める。
「あ……僕は、草薙大和」
「“草薙君”ですね。えっと……」
「あ、あたし、蓬莱桜子です」
 視線が自分のほうにもやってきたので、桜子は自分も名乗った。
「“蓬莱さん”か……うん、覚えました」
 嬉しそうに二人の名を何度も口にして、それぞれに笑顔を向ける青年。苦しそうな息の下では決してわからなかったその清浄で高潔な雰囲気が、好感を持たせる。
「僕は、安原誠治。仁仙大学の2年生です。それとこっちが……」
「六文銭孝彦だ」
 ぶっきらぼうな物言いで六文銭は名乗った。そんな同輩に苦笑を浮かべ、安原誠治はもう一度、二人に笑顔を向ける。
「ありがとうございました」
 淀みのない、透き通ったその笑顔は、清涼な爽やかさを胸に残した。
「それじゃあ、僕たちは」
「はい。お世話になりました」
 大和と桜子は、誠治と六文銭の前を辞して球場に向かっていく。
 その背中を追いかけるように眺めていた誠治に対し、早速とばかりに六文銭が口を開いた。
「あんまり心配させるな。お前に何かあったら、俺は水野に申し訳ない」
「すみません。今日の観戦、どうしてもしたかったので……」
「やめておけ」
「そう言われると思いました」
「だから、黙って出てきたのか。まったく……」
 絶対安静とは行かないまでも、今の誠治に外を出歩かせて、体力を消耗させることは好ましくない。なにせ彼は昨日、軽い発作を起して、一日中部屋で寝ていたのだから。そのために失われた体力が、一晩で回復するはずがない。案の定、こうやって体調を乱し、他人さまの世話にまでなってしまっている。
「おまえを、水野の部屋まで連行する」
「な、なぜ、葵君の部屋なんですか?」
「俺に断りもなく外出した罰だ。水野に、しっかり灸を据えてもらわんとな。絶対、泣いて怒るぞ、彼女」
「う……。あ、葵君は、実習の準備で大学に行っているので部屋にはいませんよ。それに、男二人で女性の部屋に入るというのは、いくら気心が知れた間柄とはいえ、いかがなものかと……」
「おまえと水野は、部屋の合鍵を持ちあう仲だろうが。だから、おまえが中に入って待つ分には問題ない。問題があるのは俺の方だから、おまえがまたうろうろしないように、外で待っていればいい」
「そんな……」
「問答無用」
「あうぅ……」
 ひょい、とはいかないが、六文銭は誠治の腕を取ると、まるで猫を運ぶように彼をタクシー乗り場まで連行する。そしてそのまま、客を待っていた一台のタクシーを捕まえると、二人はあっという間に球場の前からいなくなった。


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