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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-36

 脚をあまり高く上げず、身体のバネをギリギリまで捻って、球筋に変化がないことを見極めてからスイングを始動した大和。溜められていた力が、鋭い腰の回転によって更に増幅し、根を張るように安定した下半身が身体のブレを無くし、爆発的な遠心力をバットの先まで伝えていた。
 そうやって生まれた強烈なベクトルが、松永の威力のない球を弾き飛ばしていた。たちまち、桜子が放ったそれを遥かに凌ぐ高い打球が空へと舞い上がる。
「………」
 誰もがその鮮やかなあがり具合に目を見張り、そして、見惚れていた。
「あっ……」
 ボールは緑色のフェンスを遥かに越えていき、グラウンドの敷地さえもオーバーして、小学校が課外活動用に所有していた田んぼに落ちた。その飛距離は、草野球のレベルを超えてしまっている。
「だ、誰だ、あそこまで飛ばした奴は!?」
「松永か?」
「いや、違う。打たれたのは、その松永だ!」
「なんじゃと!?」
 たちまち、グラウンドがざわめいた。
 松永の“過去の栄光”や抜きん出たその実力は良く知られていたし、誰もが認めていたから、その打球を放ったのが彼ではなく、しかも、被弾したのが彼であることを知ると更にざわめきが大きくなる。
「誰だ! 誰が打った!?」
「あいつか? あの、細い奴?」
 そういう外野の喧騒も意に介さず、大和は塁を廻る。
「あれ? 蓬莱さん?」
 一塁を廻ろうとして、慌てて立ち止まった。なんと桜子が、飛んだ打球の方向を見やったまま固まっていたからだ。
「あ、あの……廻らないのかい?」
「え」
 初めて気づいたように、桜子は側にいた大和の方を見た。
「追い抜くと、アウトになるからさ」
 呆然としている桜子を、苦笑しながら促す大和。
「ご、ごめんね」
 桜子もようやく現実に戻り、塁を廻り始めた。
 そのまま並ぶようにして、次々と塁を踏み、そしてホームに還る二人。記録員はすぐに“2”の数字を書き込んで、これでドラフターズは6−5とシャークスを逆転した。
「………」
 マウンドで我を失ったように茫然としている松永。その後、まるで糸が切れたような力のない彼の投球に対し、素人ばかりの下位打線も快音を響かせ、2点を追加して8−5とシャークスを突き放し、6回裏の攻撃を終えた。
 残すイニングは、7回の表裏。だが、肝心の松永が投打に渡って圧倒された今、シャークスにその劣勢を跳ね返すだけの力は残っていなかった。
 1番から始まった絶好の打線も、京子の全力投球の前にバットにかすりもできず、瞬く間にツーアウトとなり、追い込まれる。
 3番の松永が打席に入るが、勢いも力もある新・バッテリーは、この強打者に何の脅威も感じなかった。
「ねえ、桜子」
「? なんです?」
「ちょっと、投げたいボールがあるの」
 とりあえず、マウンドに寄り合って最後の確認をするバッテリー。松永の“カットファストボール”に刺激を受けていた京子は、その負けん気の強さが出て、どうしてもその松永に投げたいボールがあった。
「ナックルなんだけど……捕れるかしら?」
「わかんないけど……身体には当てるよ!」
 血止めのガーゼを鼻に詰めたまま、眩く笑う桜子。顔面に当てられながら、ボールに対する恐怖心を欠片も見せないこの少女は、本当に肝が太い。
 もっとも、バレーボールの国際大会で、アメリカの選手の強烈なスパイクを顔面でレシーブし、鼻血だけでなく脳震盪まで起こした過去を持つ桜子だから、そういう経験はお手の物だった。


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