『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-278
「………」
待つ身、というのは時間を長く感じる。手持ち無沙汰に時を過ごしていた桜子は、ベッドの小脇に置かれているリモコンが目に入った。備え付けのテレビを、これで操作できるのだろう。
(なにか、やってるかな? チャンネル、わからないけど)
とりあえず、電源を入れてみた。
“あ、ああぁ〜! ああぁん! んんんっ! き、きもちいいのぉ〜っ!”
「えっ……」
大音量に響いた、喘ぎ声。それはテレビの中で、男の体の下に組み伏せられている女が発したものだった。
“やぁっ! ああんっ! んあっ! ああぁっ! ああぁあぁぁっ!”
「な、な、な、なに……っ!? なんなの、これっ!?」
いわゆる、アダルト専門チャンネルである。この類のホテルには、概して用意されているものだ。もちろん、普通のチャンネルにも廻すことはできる。今回は偶然、チャンネルの位置がそこに合っていたのだろう。
“あっ、あっ、あっ、あっ! やっ、だめっ! だめっ! も、もうだめぇぇぇ!”
「あ……あぁ……すご…い……」
あんぐりと口を開けながら、それでも画面から目が離せない桜子であった。なにしろ、誰かと誰かが致している真っ最中の現場を、“聞いたこと”はあっても“見たこと”はない。ちなみに、“聞いた”というのはご存知のとおり、姉の由梨が毎夜聞かせてくる喘ぎ声のことである。…それはさておき。
“やっ、やっ! だめっ! だめっ! イ、イクッ! イッちゃうぅぅぅう!!”
「………」
桜子の喉が、興奮の息を飲み込む。その視線は、激しい腰使いをしている男優にはなく、その真下で腰をゆすりながら、悶えよがっている女優に集中していた。
(あたしも……いつも、こんなふうに……?)
そこに、自分の姿を映していたのだ。大和の下に組み伏せられて、快楽の喘ぎを叫んでいる己の浅ましい姿を…。
「!?」
やがて画面が、別のものに切り替わった。仁王立ちになった男優の股間でそそりたつものに、恍惚とした表情で女優が舌を這わせている、そんな映像である。
(あ、あれって……確か……ふぇ、ふぇら……)
“フェラチオ”という行為の名前は知っている。口と舌を使って、相手のイチモツに刺激を与える、スタンダードな性技のひとつだということも。だが、実践したことはない。
“ん……んふ……ちゅる……ちゅ……んちゅ……”
まるでアイスキャンデーを与えられた童女のように、女優は楽しげにイチモツを舐めたり咥えたり吸ったりしている。 肝心な部分はモザイクがかかっているのでよく見えないのだが、竿の部分を指でしごき、時には陰嚢にまで手を廻して、ひたひたとそれを弄んでいるらしい。
ごく…
と、再び鳴る桜子の喉。女優の一挙一投に釘付けとなり、瞬きも忘れ、食い入るように見続けていた。
「あっ!」
やがて、モザイクの中で掴んでいた男優の先端から、白いものが飛び出してきた。それはそのまま、女優の顔に勢いよく降りかかる。それを避けようともせず、むしろ、悦びながら甘受して、笑みさえ浮かべていた。
ちなみに、それが“演技”だということに、桜子は気がついていない。アダルトな内容であろうと、それは商業用に撮影された“ドラマ”なのだが、彼女の目には、口を使って男を愛し、それで悦んでいる女の姿が、興奮の中に新鮮な驚きをと感動を咥えて…いや、加えていた。
(あれをしたら、大和君も嬉しいのかな……?)
猥褻な画面を映したまま、桜子は考えの中に沈む。