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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-264

「ねえ」
 亮の思考は、深いところまで沈んでいる。ゆえに彼は、晶の呼ぶ声にも気が付いていない。
「ちょっと」
 真後ろに晶が立つ。しかし、そのはっきりとした気配でさえ、彼の集中は解けなかった。
「亮ってば」
「!」
 声がだめなら、残る手段は実力行使である。晶は腕を伸ばし、そのまま亮の首に巻きつくようにして、自分の頬に彼のそれをたぐり寄せた。
「あ、晶…」
 女性としてのたおやかさを失わず、それでいて引き締まった感のある二の腕は、湯上りの瑞々しさを多分に含んでいる。それは、触れ合っている頬も同様であった。
「呼んでるのに」
「あ、ああ。すまない」
「また、野球のこと?」
 彼が黙考する理由は、第一がそれである。と、いうより、ほとんどそれしかない。
「今日の試合のことを、な。…晶、いいピッチングしたなって」
「それ、おべっかでしょ?」
「う…」
 さすがに連れ合う年月が長いと、ごまかしも利かなくなる。黙考の中に晶の姿がなかったことを気づかれまいとした亮は、逆に墓穴を掘る形となった。
「あなたの気持ち、当ててあげよっか?」
 それを責める様子もなく、晶は言葉を紡ぐ。
「あのコに、ベタ惚れ…。草薙くんのことで、いっぱいなんじゃない?」
「…かなわないな」
 すべて、お見通しというわけである。そして、その見通しは間違いなく的を射ていた。
「ちょっと、妬いちゃうかな……。今日、途中からずっと、亮、あのコのことばっかり考えてたんだもん」
「ま、まぁな……」
「でも、あたしから見ても、すごいセンスあるコだもの。あなたが惚れるのも……わかるわ」
 ぎゅ、と首に巻きつく腕に力がこもってきた。言葉とは裏腹に、亮を独占しようとする晶の気持ちがそうさせているのだろう。
「久しぶりに一緒に野球できたから、いいんだけどね」
 それでも、亮の気持ちが途中で“浮気”にも似た移り方をしたのが、晶には少し面白くない。なんとかそれを表に出さないようにしているが、沈んだ気分は言葉尻の中に含まれていて、亮は可哀想になった。
(楽しみに、してたもんな)
 自分とバッテリーを組める試合ということで、晶は1週間前から準備に余念がなかった。夫婦の習慣となっている毎朝のランニングに加え、午後から1時間ほどジムに通って体を絞り込み、夕方は買い物袋を両手に抱えたウォーキングで根気を養う…。主婦業と監督業をおろそかにせず、合間を使って彼女は鍛錬を重ねてきたのだ。その結果が、往時から衰えのなかった快速球の存在であった。
 それなのに、自分は途中から晶を見ず、相手の投手にばかり関心を寄せてしまった。いくら指導者としての性分が顔を出したとはいえ、晶に対する不実は責められてしかるべきだろう。
「今日は、本当にいいピッチングをしてたよ」
「ほんとに?」
「ああ。学生の頃を思い出して、すごいドキドキした」
「そうなんだ。うふふ……」
 すりすり、と頬を擦り付けて甘えてくる。それが触れ合いを求めているサインなのは、すでに承知のとおりだが、今は特に、彼女のことだけを考えて慈しみたいと強く思った。
「傍に、来てくれ」
「ええ…」
 自分が座っている隣に、晶を招き寄せる。シャワーを浴びたばかりの彼女は、バスタオル一枚で身を覆っているだけの姿だったが、むしろそれを喜ぶように、彼女の体をやんわりと腕の中に引き寄せた。
 シャワーを浴びて潤ったその全身が、バスタオル越しにしっとりとした密着感を生み出していた。何しろ亮も、パンツ一丁の姿なのである。
 生まれたままの姿に近い二人だから、互いを求める行為は時を待たずに始まった。


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