『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-242
つまり、そのときの記憶ははっきりしているということで、コトの最中に自分が何を晶に語りかけていたか、しっかりと覚えている。
「この口がね、あたしにとっても恥ずかしいことを言わせてるのよ」
うにうに、と唇を指でつつかれる。自覚があるだけに、亮はされるがままだ。
「まあ、でもね……」
「?」
「大好き。そういうところも……」
指先の固い感触が消えると、今度は柔らかいもので覆われた。
(饒舌にさせるんだよ……晶が、俺をさ……)
こんなふうに、可愛い仕草を見せられるから、調子に乗ってしまうのである。
「あんっ……ちょ、ちょっと……ん、んんっ……んぅっ……」
かくして時を置かず、3ラウンド目は開始されるのであった。
3ラウンド目を終え、幸福な時間にたゆたう二人。たっぷりと胎内に放出された種を護るように、晶の左手が下腹に添えられている。
そんな晶の身体を、亮はまるごと抱え込むように、胸の中に抱きしめていた。
(幸せ……)
ぬくもりに包まれて、晶はこれ以上ないくらいの至福に浸っている。亮も同じことを言っていたが、この世で一番幸せだという自信は、彼女にもあった。
「あ、そうだ……」
「ん?」
しばらく時を置いてから、亮が何かを思いついたように口を開いた。かすかにまどろんでいた晶は目を開き、彼の顔を見上げる。
「今度の試合、俺も出ていいかな?」
「亮が?」
「うん」
唐突に野球の話題になったことは、いかにも彼らしい。
「久しぶりにさ、晶と一緒に野球がしたくなった」
「!」
とくんっ…
と、晶の胸が鼓を打った。ときめいたのである。
今の亮の言葉には、聞くものにとって何ひとつ色めいたものなど入っていなかっただろうが、それは晶にとって同義ではない。“一緒に野球がしたい”というフレーズは、亮が捧げてくれる言葉の中でも、“愛している”に匹敵するほど晶を喜ばせるものなのだ。
「あたしも、亮と一緒に野球したいな……」
監督として外から見る機会が多くなったが、晶としてはやはり、野球はやる方が好きである。彼が一緒のグラウンドに立つとあれば、なおさらのことだ。
「赤木さんに、頼んでみるよ。多分、OKだとは思うけど」
「うん」
「図々しいかもしれないけど、バッテリーを組ませてもらえたら嬉しいな」
「赤木さんのチーム、正式なキャッチャーがいないって話だから、むしろ歓迎なんじゃない?」
「うぅむ。レギュラーの人には申し訳ないが、そうであって欲しい」
やはり彼は、野球を絡めると会話が特に弾む。幾十人もの教え子に囲まれながら教鞭を振い、時には厳しく説教をしている姿とは全く違う、試合の開始を待ちわびている球児のうきうきした表情がそこにあった。
(この顔にも、惚れたんだよね……)
高鳴るときめきを、もう抑えきれない。
「ねえ…」
「うん?」
「好きよ」
晶はもう一度、今度は深く、亮の唇を塞いだのだった。……』
…試合の最中だと言うことを、忘れていました。