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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-226

「別にそれはいいけど、どうしたの? 何か、予定でも入っちゃったの?」
 受話器の向こうにいる京子に対し、晶は何かを問うている。
「………」
 わずかな沈黙。それが亮に、何ともいえない緊張を運んだ。
「えええぇぇぇ! ほんと? それ、ほんとなの!?」
 急に大きな声を出して、晶は受話器にかぶりついていた。緊張しながら耳を傾けていなければ、亮は驚きのあまりソファから転げていたかもしれない。それぐらい、高いトーンの声だった。
「あぁ〜ん。先越されたかぁ」
 そんな声に、なにやら残念そうな色が混ざる。
「でも、よかったね。おめでとう」
 すると今度は、祝いの言葉が出てきた。聞いている方としては、取り留めのない感情の移り変わりに、戸惑うばかりである。
(なんだろうな?)
 受話器を通して盛り上がっている話の内容が、聞き耳だけではどうにも見えてこなかった。
「うん、わかった。それならしょうがないね。さっきの話は、引き受けたわ。うん、うん。そっちも、体には気をつけてね。暑いからって、いつかみたいにおなか出しっぱなしにして寝てたら、風邪ひくんだから。……うふふ。うん、それじゃあね」
 やがて晶は、受話器を置いた。
(うーむ。なんだったんだろうか)
 話の内容は、ついに掴めなかった。終わりの部分では、晶はなにやら相手の体調を思いやる様子があり、それがいささか気にかかる。
「京子ちゃんから?」
「うん」
 電話口で話していた相手が誰かと言うことは、“京子”という名前が最初に出ていたので問うまでもない。
「今度の土曜日に、ドラフターズが試合をするらしいんだけどね」
「赤木さんのチームか。京子ちゃんも入ってるんだよな、確か」
 大学時代の先輩で、いまは“蓬莱亭”の店主となっている、蓬莱龍介(旧姓・赤木)が創った草野球チーム・ドラフターズ。そのエースが、京子だと言うことは亮も知っている。彼女は、大学も異なり学年もひとつ下であったのだが、“隼リーグ”では何度も火花を散らした好敵手であった。
 また、彼女が店長として営んでいる酒屋“ダイゴ・リカー”が、蓬莱亭と懇意にしている関係もあって、社会人になってからもよく顔を合わせていた。そんな繋がりが高じて、今では互いに気のおけない間柄となっている。
「そのドラフターズの試合が、どうかしたのかい?」
「うん…」
 不意に、話の流れが途切れた。
「晶?」
 彼女が、沈黙してしまったからだ。何となく、気落ちしている様子でもある。
(なんか、まずいことなのかな?)
 今までの会話を振り返り、晶が気落ちする原因に探りを入れてみる。だが、“京子のいるドラフターズが、土曜日に試合をする”という話題があるだけだった。どう考えても、晶の落胆とは結びつかない。
 ソファに戻ってきた晶は、電話が鳴るまで座っていた向かいの位置ではなく、すぐ左隣に腰をおろしてきた。
「おっと…」
 そのまま、身体を預けるようにしてもたれかかってきたので、亮は、彼女の背中に腕を廻して、スタイルの良い身体を抱きとめた。彼女は最近、夕方に軽くシャワーを浴びるらしいが、夏の暑さゆえか、ほんのりとした香気が感じられた。
「………」
 深刻というわけでもない。しかし、晶の様子を慮って、亮はテレビの電源を切る。スポーツキャスターが織り成していた侃々諤々の論戦が消えたので、部屋の中は静かになった。
「どうしたんだい?」
 その様子を見れば、触れ合いを求めているのがよくわかる。彼女の気持ちに応えるように、優しく髪を撫でながら、言葉を待つ。
「あたしに、投げて欲しいんだって」
「土曜日の試合に?」
「うん」
 目を閉じて、髪を梳く指使いの優しさに恍惚としながら、吶々と言葉を繋げる晶。


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