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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-224

「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 本塁打を打たれて気落ちはしたが、桜子を含む後続を晶はしっかりと抑えた。
「あぁ、もうっ! また、あのコに打たれちゃった!」
 それでも、彼女は苛立ちを隠さない。抑えるつもりで投げた渾身の速球を打たれ、しかも勝ち越しを許してしまったのだから、無理もない。
「あれは、打った方を褒めるしかないな」
 晶はベストピッチを見せてくれた。慰めるための言葉はもう、それしかなかった。
「むぅぅぅっ……」
「そんなに、むくれるなよ」
 負けん気の強さを顕わにしている晶。そんな彼女を、随分と久しぶりに見た気がする。これはこれで、かわいいものだ。
「おっ…」
 試合の中に意識を戻したとき、双葉大のベンチワークに動きがあった。8回表の攻防を前に、マウンド上に相手の野手陣が集まっており、その輪が散った後、マウンドに立つ選手が代わっていたのだ。
「ピッチャー代えたのか」
「そうなの?」
「あの4番バッターだ。彼が、マウンドに立った」
「ほんとだ」
「投手もできるんだな。やっぱり、そうだったか」
 三塁からの送球を何度も目にした亮は、内野手にしておくのは惜しい“球筋”だと思っていた。彼をマウンドに立たせてみたら、どんなボールを投げるのだろうかという関心を、彼は抱いていたのだ。
「頭から来ないってことは、控えなんでしょ? フィールディングとか、バッティングとか、ものすごいセンスのあるコだってのはわかるけど…」
 対戦の回数は亮より多いが、晶も大和の過去は知らない。しかも、彼がマウンドに立つ姿は、初めて目にするのである。その力量がどれほどのものなのか、知る由はない。
「まぁ、じっくり見させてもらうとするかな」
 亮の眼差しが、指導者のそれに変わっていた。鋭い視線をマウンドに向け、軽く投球練習を始めた大和に意識を集中させている。
「亮……」
 監督として、教え子たちにいつも向けている眼差しであったが、それ以上に、何か名状しがたい感情の存在も感じた。これは、“女の勘”が働いたのである。
「なんだか、楽しそうねぇ」
「ん?」
「あのコを見てるあなた、“恋する乙女”って感じがするわ」
 自分を打ち砕いた相手に、亮が一方ならぬ興味を寄せているのは、少しばかり面白くない。“女の勘”は、亮の中に湧き出た“浮気心”に反応したのだ。
「まぁ、似たようなものかな…」
 注意を自分に向けようとした茶々が、真面目に受け止められてしまう。
「………」
 そのまま彼の意識は、投球練習を始めた大和に注がれた。皮肉と嫉妬がこもった晶の言葉は、意図して中に含めた“棘”も刺さることなく、ひらひらと何処かに飛んでいったようだ。
(もうっ)
 こうまではっきり流されると、何ともしようがない。
「………」
 自分の茶々が、つまらない嫉妬だという自覚もあるので、晶は黙ることにした。その代わりとばかりに、恨めしそうな視線を亮に向けながら。
(いい顔……してるわね…)
 野球に没頭している夫の横顔は、久しぶりに見る。真剣な眼差しに、晶は胸が高鳴った。そんなときめいた感情も、久しく抱いたものである。
(その顔なのよねぇ。あたしが一番、好きなのは…)
 学生時代の頃のように、今度は晶が“恋する乙女”となって亮の横顔を見つめている。
(とりあえず、京子には感謝しとかなくちゃ)
 どうしても野球の試合に出られなくなった京子から“代役”を頼まれたのだが、亮もその話に乗ってきて、こうして夫婦で参加という形になった。京子からのお願いがなければ、バッテリー復活は実現しなかったのである。
 お互いに同じフィールドに立って、野球の試合をするのはやっぱり楽しい。
(電話があった後だっけ……)
 その時の記憶を反芻する晶。
(燃えたのよねぇ……)
 脳内にメモライズされた事物の彩色が、艶めいたものであることも承知の上で、彼女はそれを揺り起こすのだった。


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