『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-19
「草薙大和といいます。あの、蓬莱さんに誘ってもらって、来ました。ぶしつけで申し訳ないですが、今日はお世話になります」
慇懃で真摯な態度も、非常に好感が持てる。今時の十代には珍しいほど、その仕草のひとつひとつに誠意が満ちていた。
「気に入った!!」
刹那、龍介が両手を打ち鳴らした。高く響いたその音に、ドラフターズの各員が目を向ける。
「草薙君、やったな。ワイが桜子の義理の兄で、このチームの代表やっとる蓬莱龍介や。うむ、今時の高校生にゃ珍しいぐらい真摯な子やね。これなら、安心して妹のことを任せられそうや。よろしく、よろしく!」
「?」
状況を理解できていない大和は、満面の笑みを浮かべながら手を握り締め、それをぶんぶんと振り回す龍介の様子に困惑している。はにかんだ笑みを浮かべながら、救いを求めるような視線を桜子に送った。
「お、お兄ちゃん!」
それに気づいた桜子の弁明も、果たして龍介に届いたかどうか。
「これ、君のユニフォーム。俺と同じぐらいって聞いてたし、実際そうみたいだから合うと思う。背番号は、こっちで決めて貼り付けさせてもらったよ」
早速とばかりに新村が大和にユニフォームを渡す。既に大和は、野球部のときに使う練習着の姿であったが、こうやってわざわざ自分用のそれを用意してくれていたところに彼らの暖かさを感じ、少し胸が詰まった。
「あ、ありがとうございます」
「野球好きなら、大歓迎だ。よろしく、草薙君」
「ハイッ!」
重厚な原田の微笑みを受け止めて、大和もようやく緊張を解くことができた。そして、運動会系特有の張りのある返事が、彼に対する皆の好感度を更に高めた。
とにもかくにも、初めての顔合わせにも関わらず草薙大和はドラフターズの中に溶け込むことが出来たようだ。桜子の“ボーイフレンド”という点も大きかったであろうが、それ以上に、“野球”という、軸になる共通項があることもその理由になるだろうか。
(そうだ、僕は……)
大和は違う形で触れることの出来た野球の魅力に、改めて、自分がこのスポーツを心から好きだという気持ちを思い起こすことが出来た。
「ありがとう、蓬莱さん」
だから大和は、そういう機会をくれた桜子に礼が言いたくなった。
「え? う、うん」
思いがけない言葉を受けた桜子は戸惑いを見せるが、しかし、病院で話をしていたときとは違う、活き活きした様子の彼の笑顔に、知らず胸を熱くしてしまっていた。
今日の大会にエントリーしたチームは8チームだった。トーナメント制を敷き、くじ引きによってブロックを定め、対戦相手を決めていく。決勝まで勝ちあがれば、その日だけで3試合を行うことになるが、野球の試合ではかなり多い方だ。
龍介率いるドラフターズは、“6”のくじによってBブロックの山に名を刻んだ。最初の対戦相手が既に書き込まれており、そこには“シャークス”とある。
「………」
途端、龍介や京子の顔つきが険しくなった。少し陽気なところもある新村でさえ難しい表情をし、原田もその顔色に重いものを漂わせている。
「やあやあ、ドラフターズの皆さん」
そんな雰囲気も介することなく、“SHARKS”のロゴを胸に張ったユニフォームを着た、頬のこけた男が寄ってきた。
「松永の旦那……まいど、どうも」
龍介にしては珍しく、抑揚のない言葉づかいでそれに応じる。
「愛想ないですねえ」
そういう雰囲気を受け流しながら、男はにやにやと笑った。物腰は柔らかだが、気を許せない狡猾さも感じさせる。