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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-17

「おはよう、桜子」
 その中の一部であった桜子の背中に、凛とした声がかけられた。
「あ、京子さん。おはようございます!」
 桜子と同じ縦縞のユニフォームに身を包んでいるから、彼女は桜子のチームメイトだ。女性ではあるが、ユニフォームを着慣れた雰囲気がそこにあって、見る人が見れば彼女が相当に“できる”選手だとわかるだろう。
 彼女の名は、管弦楽京子。蓬莱亭に飲料等を卸している酒屋“ダイゴ・リカー”の女店主である。その縁で、龍介が先だって発足させた草野球チーム・ドラフターズの一員となっていた。
 彼女は、中学の頃はソフトボール、高校・大学では軟式野球に汗を流してきた過去を持つ。その長い球歴によって、女性とはいえ、素人が大半を占めるドラフターズの中で図抜けた能力を持っていた。
「はりきってるじゃないの、一番乗りなんてさ」
 京子は、今日がデビュー戦となる桜子の様子を苦笑まじりに眺めている。試合が始まるどころか、開会式さえ終わっていないというのに桜子は興奮した面持ちで、その息づかいも何処か荒いものだったからだ。
「お兄ちゃんも、一緒ですよ」
 何しろ、住所は同じだ。さもありなん、と京子は納得する。
「大将は?」
「エントリーの確認に、本部テントへ行ってます」
「そう。……今日は、何チームぐらい来るんだろうね」
 京子が周囲を見廻しながら、言う。見たところ、8通りほど違うユニフォームが確認できたので、8チームかそれ以上の数字になるだろうか。
「おはよーっす」
「おはよう、ふたりとも」
 その一団の中から、ようやくこちらに気づいたといったふうに方向を変え、早足で近づいてくる二人の男がいた。同じユニフォームの胸元には、“Drafters”のロゴがある。
「おはようございます! 新村さん、原田さん」
「早いなぁ、桜子ちゃん。お京ちゃんも」
「おはよう。あたい、嬉しいよ。原田さん、時間が取れて」
「ああ。スケジュールを併せられたからね」
 新村と原田は、大学時代の龍介の同期生である。そして、同じ軟式野球部で切磋琢磨してきた同僚でもあり、龍介が草野球のチームを起す際に、真っ先に同調したのが彼らであった。
 地元が城北町であり、長男でもある新村は、家業のクリーニング店を継いでいる。大学時代は絶妙なポジショニング能力を生かし、二塁を守っていた。守備に関して利くその目端と気配りは、もちろん仕事の中にも健在で、細やかで行き届いたサービスがなかなか好評を呼び、不況下にあっても彼の店は順調な売上を維持している。
 原田は、隣県の都市部にビルを構える総合商社“ローレイク”に勤めている。既に社長が代替わりを重ねてきた老舗の一流企業だが、その中で彼は、三十になったばかりの若さで第三営業部(小売専門販売事業部)・営業部長を任じられていた。背が高く、重厚な雰囲気を持っている彼にはある種の貫禄があり、入社以降もかなりの活躍を見せていたから、その抜擢も頷ける話である。そして実は、彼がローレイクの創業者“泉小路宗太郎”の直系となる血筋の連なりにあることも大きく影響しており、将来的なことも睨んだ経営陣の人事だったのだが、これは本人はもちろん、周囲で知っている者もほとんどいない。
「おお、ふたりとも来よったか」
「赤木」
「よう、赤木」
 既に姓は替わっているというのに、未だに龍介のことを旧姓の“赤木”と呼んでいる二人。“蓬莱”と姓が改まってから、なかなか慣れないふたりを慮り、“呼び名を無理に変える必要はあらへんよ”という龍介の言葉に甘え、今では“通称”としてそれを使っている。
 卒業後も、近場にいるということもあり、龍介とこの二人は親交を重ねてきた。大学時代も合わせて10年近くになる互いの関係は、“親友”と呼んで差し支えないほど気のおけないものになっている。


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