『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-160
「………」
マウンド上の大和は、桜子が構える位置を確認してから、プレートに足をかけた。一塁上の走者を視線で何度も牽制しながら、クイックモーションで投球を開始する。
パシッ!
「ストライク!」
外角低めに構えた桜子のミットを、寸分違わず大和のストレートが貫いていた。
二球目は、やはり外角。しかし、半個分ほどストライクゾーンを外している。やはり大和は、逡巡することもなくその指示に頷くと、量ったような正確さで射抜いた。
ゴツッ…
“同じコースに来た”とスイングにかかった打者ではあったが、ボールを半個分ストライクゾーンから外してあるということを見抜けず、芯で捉えきれなかったために平凡なゴロとなった。
(よしっ!)
遊撃手の岡崎が、流れるような動作で眼前に飛んできたゴロを処理する。一死だったので、セカンドのベースカバーに入っていた吉川にまずはそれを送球し一塁走者を封殺した。その後、吉川はファーストの守備についている雄太にボールを送り、余裕をもって打者走者をアウトにしとめた。
典型的な、ダブルプレーである。
「よっしゃ、よっしゃ!」
最後にボールを受け取った雄太が、上機嫌で大和の背中を押しながらベンチに戻ってきた。ヒットを打たれながらも、絶妙の制球で要所を締める大和を労ったのだ。
ブロック戦の最終節である國文館大学との試合は、既に5回まで進んでいる。
國文大|000|00 | |0|
双葉大|201|00 | |3|
國文館大学は全勝しているチームだけあり、これまでの相手とは一味違う。打撃も守備もよく練られていて、試合の主導権は双葉大が握ってはいるが、まだまだ油断のできない展開になっていた。
キン!
「くっ……」
6回の表、先頭打者であった相手の3番バッターに投じた大和のストレートが、その力強いスイングによってものの見事に弾き飛ばされた。右中間に飛んだそれは、品子の打球処理の鈍さも重なって、打者走者を二塁まで進出させる。
無死二塁という絶好の好機に、迎える打者は4番。2部リーグとはいえ“強豪”の名を戴いてきたチームの主砲だけに、その構えからはそれなりの威圧感が漂っている。
(………)
それでも桜子は、臆することなくインコースへのボールを大和に要求してきた。もちろん、ストライクゾーンをわずかに外したところである。
(度胸のいい、リードだな)
一塁を守る雄太は、長打を打たれながらも内角を攻めることに恐れを抱かない桜子のリードに、彼女自身の胆の太さを改めて思い知った。
(草薙もな)
逡巡も見せることなくそのリードに頷き、大和がセットポジションから投球を始めていた。桜子のリードを、心から信頼しているという雰囲気が感じられる。たとえ球威の乏しいストレートでも、インコースを強気に攻めることを忘れれば、配球を簡単に読まれてしまうだろう。桜子のリードはその鉄則を遵守しているし、大和もその意思を受け止めている。
息のあった、いいバッテリーだと雄太は感じた。
ギン!
「!」
内角に投じられたストレートを、相手の4番は強引に引っ張った。力で持っていったといってよい打球は、鋭いライナーでショートの頭を越えようとする。
「いかせん!」
機敏な反応を見せた岡崎が、その打球に飛びついた。左手を目一杯のばして、グラブの先でボールを掴みとろうとしたのだ。
「アウト!」
そして、球足の速いボールを岡崎は、ものの見事に捕まえていた。