『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-153
「あ〜あ……結局、幸次郎ってば、草薙くんと喋ってばっかりでさ」
「う、うむ……野球のことだったので、熱中してしまった」
「ふふっ。でも、二人ともなんだか可愛かった」
「む、むぅ……」
蓬莱亭での心休まる時間を終えて、“ダイゴ・リカー”の一室に二人は居た。本拠地である千葉マリンブルースタジアムで試合が行われる時、幸次郎はこの家から球場へ向かう。言うなれば二人の“愛の巣”だ。
ちなみに、先代の店長である京子の伯父(京子の父親の兄)は既にこの店から身を引いて、店長の座を譲った姪の京子を助けながら、今は連れ合いと別宅で悠々自適な生活を送っている。実は早くに両親を亡くしていた京子は、子供がついにできなかった伯父夫妻に引き取られ、実子同然に大事に育てられていたのだ。
京子と幸次郎が所帯を持ったことで、伯父夫妻は自らの務めが終わったことを悟り、急逝した弟から預かった店を、その娘である京子に譲った。以来、伯父の気持ちに応えるためにも、京子は懸命になってこの小さな酒屋を切り盛りしている。“威勢のいい女店長”と近所でも評判で、町内の商店会でも大きな存在感を有するようになっていた。
「幸次郎……」
そんな彼女も、夫の前では女になる。店の奥にある寝室に入るなり、甘えるように幸次郎の胸元に身を投げ出した京子は、その肩に手を廻して情をねだっていた。
「あんたが居ないと、あたい、寂しいの……」
遠征に出かければ、その間はひとりきりだ。時々、伯父夫妻や親友の晶が訪ねてくれるが、寂しさを払拭するには至らない。仕事に打ち込んでいる日中はその寂しさもまぎれるが、夜になればたちまち孤独が彼女を心細くさせる。ネットを通じて極太のイボつきバイブを購入し、寂しさにたまらない夜の慰めに使用しているが、そんな行為も焼け石に水で、本当の満足を得るには、とにかく幸次郎の帰還を待つしかない。
それほどまでに、京子は夫を愛している。
「寂しい思いをさせて、すまない」
やむをえないとはいえ、勝気な京子にそう言わせてしまえば幸次郎としても罪悪感が湧く。昨季はBクラス(4位以下)に終わってしまったから、開幕してからしばらくは相手の本拠地での戦いが続き、シーズンの始まりから2週間が経ってようやく本拠地での試合を迎え、こうして家に戻ることが出来たのだ。
「京子……」
「んっ……」
幸次郎は京子の寂しさをあやすように、彼女の腰に優しく手を廻して抱き締めた。
その逞しい胸に顔を押し付ける京子。
「ごめん……あたい、ワガママ言ってるよね……」
プロ野球選手と所帯を持つと決めたのだから、その辺りは京子も理解していたし、覚悟もしている。
だが、一人寝の寂しさにはどうしても慣れないのだ。件の極太イボつきバイブは確かに催した性を激しく慰めてくれるが、所詮は器械である。こうやって触れ合うぬくもりと優しさに、比べるべくもない。
「いいのだ。今日は存分に、ワガママを言ってくれ」
「ん……じゃあ、いっぱい……エッチなこと、して……」
「う、うむ」
直球勝負に出てきた京子に対し、幸次郎は敵わない。どんな剛球投手と対戦していても決して臆したりしない彼だが、自分の恋女房にはめっぽう弱いのである。
すぐに京子の体を抱え上げると、結婚したときに京子の伯父が婚姻の引き出物として用意してくれた大きなベッドの上に彼女を寝かせた。そしてそのまま、覆い被さるようにして愛妻の顔を覗き込むと、瞳を閉じて差し出してきた唇の上に、みずからのそれを重ね合わせた。
「ん、ふ……」
甘く鳴る、京子の声。待ち望んでいた感触に、早くも彼女は甘く反応している。
「ん、ちゅ……んふっ……んん……」
唇を優しくかみ合って、その柔らかさを堪能しながら、夫の首廻りをしっかりと捕まえて離さない京子。夫に組み伏せられていながら、彼女は唇による性戯を先導している。
「京子……ん、む……むむ……」
どちらかというと性に淡白なところのある幸次郎ではあるが、そんな彼を濃厚なまぐわいに誘い、我を忘れるほどに燃え上がらせる術を、京子は心得ていた。結婚前に、彼の“チェリー”を喰ったのは彼女だ。それも、道理であろう。