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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-148

「旦那さんも、一緒なんだ」
 その京子の隣には、連れがいた。スーツの上からでもはっきりとわかるがっしりとした肩幅と、すっきりと伸びた背筋によって、紳士な趣を持っている男性である。
「大将どの、お久しぶりです」
「いやいや! よう来てくださった!!」
 あの龍介が、恐縮したようにその男性と応対している。俄かに、彼と京子を取り囲んだ視線もまた羨望を含んだ色合いが滲んだ。
「いらっしゃい、管弦楽選手!」
 管弦楽幸次郎。千葉ロッツマリンブルーズに所属する、現役のプロ野球選手である。
 ペナントレースは既に始まっている。そして、彼のいる千葉ロッツマリーンズだが、10試合を経過して3勝7敗…。層の薄い投手陣の編成に苦しみ、早くも正念場を迎えていた。長く千葉ロッツのエースとしてチームを支えてきたベテラン左腕投手・香坂しか計算のできる先発がいないという現状は、資金力の乏しさが災いし、オフの間に解消できなかったのだ。
 その中にあって、打撃陣は好調だ。特にチームで3番を打つ管弦楽は、開幕戦の2打席連続アーチ(チームは敗れたが)を含め、既に5本のホームランを放つなど特に気を吐いている。昨年は東鉄ライアンズの“暴れ馬”ことガルベラ選手と、最後まで本塁打王を争ったその打撃力は、今年も開幕からエンジン全開であった。
「妻の京子が、いつもお世話になっています」
 そして彼は、京子の夫でもある。その縁で、まだ無名だった頃から蓬莱亭には何度か脚を運んでいた。
「これは、つまらないものですが……どうか、受け取ってください」
 一軍に定着し、レギュラーとして活躍するようになっても、彼は顔を見せてくれる。そしてその度に、ロッツの本拠地であるマリンブルースタジアムの名物“マリンちゃん饅頭”を手土産に持ってくるのだ。ロッツのマスコットである、シャチを可愛らしくデザインした“マリンちゃん”の形をしたこしあんの饅頭で、8個入りは760円。12個入りは1100円だ。もちろん彼が持ってきたのは、12個入りの方である。
「ああ、勿体なや……おおきに、管弦楽はん」
 初出場のオールスターゲームで場外本塁打を放ったことから脚光を浴び、本塁打王に肉薄した後半戦の凄まじい活躍でその名が全国区になったが、彼の紳士的な立居振舞は変わらず、一料理屋の店主に過ぎない龍介にも慇懃に頭を下げてくれる。
(同じ土俵で、野球をしとったんよなぁ)
 隼リーグで対戦したことは龍介も覚えているのだが、相手の存在感があまりにも強すぎて、それ故にその過去が果たして現実のものなのか、龍介には掴めなくなっていた。
「か、管弦楽選手って、この店の常連さんなのかい?」
「そう言ってもいいかもね。ほら、そこに色紙があるでしょ? 背番号が変わるたびに、新しいのを書いてくれたんだ」
「ほ、ほんとだ。気づかなかった……」
 入団時の“82”から始まり、“66”“32”と変遷した彼の背番号は、今季から“6”となっている。一桁の背番号は、名実ともにチームの顔になったことの証でもあった。
「すごいな……」
 さしもの大和も、興奮を抑えられないようだ。なにしろ、自分が憧れたプロ野球の選手が目の前にいるのだ。それも、応援しているチームの主砲だというのだから、これで落ち着いていられるわけがない。
「よかったら、奥の方へ」
「よろしいので?」
 そんな大和を余所に、龍介と管弦楽の会話は続いている。
「もう空きのある時間帯やさかい。かまへんですよ」
「それでは、お言葉に甘えます」
 それが落ち着きを見せた頃、管弦楽と京子が足並みを揃えて、大和と桜子が座っている仕切りのあるテーブルに近づいてきた。
 二人の姿を見つけた京子が、嬉しそうに笑った。
「やっほ、草薙くんに桜子じゃない」
「京子さん、こんばんは」
「ど、どうも……」
 桜子は馴れたように京子に笑顔を見せ、思いがけずも管弦楽選手を間近に見ている大和は少し緊張している様子であった。


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