『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-128
「ね、大和くん」
「ん?」
愛撫を全身に受けていた時も、痺れるくらいの気持ちよさを身体に感じてはいたが、こうやって身を寄せて、穏やかな時間にくるまれているのもこのうえなく心地よい。
「やっぱり、運命だったね」
「?」
「こうなるんじゃないかなって、あたし、思ってた」
「ほんとに?」
大和はどちらかというと、現実主義者である。確かに桜子とは深い縁があったのかもしれないが、出逢った事実があり、好きになった気持ちを現実の中で互いに受け入れたからこそ、こうやって睦みあうことができているのだ。
夢の中で恋するだけでは、大切なものは得られないだろう。
「大和くんて、ロマンがないなぁ……」
「ああ、ごめんよ」
素っ気ない態度に、桜子が拗ねてしまいそうになったので、大和は軽く彼女を抱き締めてあやす。白馬の王子に憧れるのは、女の子なら誰もが想うことなのだろう。
「ごまかしてる」
「そ、そういうんじゃないって」
「ふふ……じゃあ、もっと、ぎゅっとして……」
「あ、ああ……」
楽しい。男の子とこんなにも楽しい時を過ごせるとは、ついぞ想像さえしていなかった桜子であった。
「初めてだったから、やっぱり少し痛かったし、ほんとのところあたしも余裕なかったんだけど、次はもう少し大和くんと一緒に気持ちよくなりたい」
ぎゅう、と更に強くしがみついていた。正直苦しくはあるが、それ以上に嬉しい。
「大和くんと、いっぱい一緒にいたいから……」
「……僕もだよ」
その強い想いに応える為に、大和もまた彼女の柔らかい体を抱き締めた。
このとき、彼の脳裏の中には、かつて愛し合った少女である葵の陰は消えていた。桜子に対する想いの数々が、記憶の中に積み上げられたからだ。“薄情”といえば返す言葉はないかもしれないが、既に二人の関係は終わっているのだ。過去になった出来事に縛られていては、新しい道を歩き出すことなどできはしない。
「好きだよ、桜子さん」
「あたしも、だよ……あ、ん……」
今はこの人と、いつまでも一緒でありたい。
新しい生活の始まりと共に得られた、かけがえのない存在を強く確かめるように、大和は桜子を抱き締めて、愛情を込めたキスを捧げていた。