『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-122
ちゅ、ちゅ、ちゅ……
粘膜同士が擦れ合う感触は、艶かしい音を残す。若い肉体の中で溢れそうになっている情欲を、さらに煽るようにして。
「はぁ……ん、んむ……んっ……」
大和の唇が深々と桜子のそれに重なってきた。淡い想いが繋がりあった直後だというのに、既に濃密な意志に支配されている二人ではある。
「ん、ちゅっ……ん、んんっ……」
浅いところで唇が止まり、何度か甘く噛まれた後、また深く暖かいものが重なってくる。
どき、どき、どき……
変幻自在の柔らかさに、桜子の動悸はこれまでにないほどの高鳴りを放ち、それを大和に伝えていた。
「ドキドキが、止まんなくて……苦しい……」
はぁ、はぁ、と豊かな胸を上下させて桜子が訴える。
「僕だって、そうさ……」
「好き……あなたが、好き……」
「僕もだよ……」
そうして何度となく重なり合う唇。互いの呼吸と唾液が交じり合って、薄闇の中でもはっきりとわかるぐらいに二人の唇は濡れ光っていた。
(どうしよう……)
キスだけでは、止まりそうにない。もっと先の世界で、桜子を愛したい。
(だけど……)
おそらく彼女は初めてのはずだ。しかも、隣の部屋では彼女の姉夫妻が同衾している。
そんな状況の中で、更に進んだ性愛を求めたとしても、果たして彼女は受け入れてくれるだろうか。この甘い雰囲気を壊すようなことになるのなら、それは諦めた方がいい。
「どう、したの……?」
キスの愛撫で既に朦朧としている桜子。その行為をふいに止めてしまった大和を責めるように、しかし優しく頬を撫でてくる。
(だ、だめだぁ……)
愛しさが、止められない。大和はとりあえず唇にその全てを預けて、深く桜子の口に覆い被さると、舌を使って彼女の口内を愛撫した。
「ん、んぷっ……」
舌が入ってきたことに、いささか桜子は狼狽したらしい。身を固くして、舌が奥に引っ込んでいったが、それにもめげずに優しい愛撫を口の中へ施しているうちに、おずおずとその舌が絡み付いてきた。
ちゅっ、ぬっ、ぬちゅるっ……
唇だけの接吻では生じえない、さらに艶かしい音だ。
「んっ、んむっ……ん、んっ……」
恥ずかしげに、慎ましやかに触れ合った舌を上下させるだけだった桜子の動きは、いつのまにか彼女のほうから熱く絡んでくるようにして、大和の舌を掴まえて離さなくなっていた。
す、と大和は顔を遠ざける。銀糸が二人の間に幾重にもかかると、それがまるで桜子の寂しさを訴えるようにいつまでも切れなかった。
「蓬莱、さん……」
恋しい人を呼ぶ。今はそれだけでも、大和の心を熱くする。
「………?」
しかし、何かをお気に召していないような鈍い色合いが桜子の瞳に滲んだのを見つけ、大和はかすかに心をさざめかせた。
「蓬莱さん?」
「あたし、桜子……」
「え……」
「桜子って、いうんだよ……」
それは、知っている。彼女の名前は“蓬莱桜子”に間違いはないし、例えば“春子”とかいう名前に改名したとも訊いていない。それに“桜子”という名前は、暖かな季節感に色彩が加わり、和的な美質に溢れているようで、大和はとても好きだった。全国の“春子”さんには申し訳ないが、彼女の名前が“桜子”でよかったと思う。
(………)
それはともかく、彼女が何を求めて自分の名である“桜子”を執拗なまでに言葉にして彼に伝えてきたのか……。