『STRIKE!!』(全9話)-91
ぶるぶるぶる……。
「あ……はぁ、はぁ、はぁ………」
布団の中にもぐりこんで、声が漏れないように唇をかみ締めて、訪れた性の高みをやり過ごす。
「………っ……っ……」
断続的に寄せては返す快楽の波。その出所を必死に抑えるように、太股をきゅ、と締めつけて、愉悦を流す。
「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」
かけ布団で押さえるようにして、晶は荒い息を整えた。
「………」
波が落ち着きを見せたとき、晶は太股の奥から指を離した。目の前に持ってくると、それは淫靡な光沢を放っている。指を動かすと、ヌルヌルした感触が生まれてくる。その粘り気の高さを示すのは、戯れに開いてみた指の間にかかる幾筋もの透明な糸。間違いなく、自分の中から溢れてきたものだ。
「すぅ……すぅ……」
「ZZzzzz……」
ふたつ分の寝息が、同じ部屋から聞こえてくる。玲子とエレナと、そして自分と…川の字のように布団を並べているのだから当然である。
(しちゃった………)
そんな空間で、自慰を。
「………」
べとべとになった左手を見ると、羞恥に顔が熱くなる。
“いの間”から聞こえてきた睦言が終わりを迎えた頃、就寝するちょうどいい時間となっていた。そのため三人は、顔を紅くしたまま無言で布団を並べ、そのままもぐりこんでしまった。
晶は、耳の奥から蘇ってくる睦言にさいなまれ、しばらくは寝付くこともできず寝返りを繰り返していたのだが、玲子とエレナの穏やかな寝息が耳に入ってくると、それが子守唄にでもなったのか、ようやく眠りの中に入ることができた。
(………)
そして、夢を見たのだ。ユニフォーム姿のまま、後ろから亮に荒々しく犯されている夢を。唾液と汚液を撒き散らして、盛んに腰を振っている自分の姿をそこに見た。自らの脳が生み出した想像の世界にも関わらず、灼熱に燃える亮の剛棒が出入りしている生々しい感触を、覚めた後でもはっきりと思い出せるほどに淫靡な夢だった。
目を見開いたとき、体中が汗ばんでいた。思わず指を伸ばした太股の奥も、じっとりと蜜に溢れていた。触れてしまったために、淫靡な誘惑が体中を流れて止まらなかった。
「………」
それで、たまらなくなって、晶は自慰を始めてしまったのだ。隣には、眠っているとはいえ玲子とエレナがいるにも関わらず。
トイレに駆け込んで、そこで処理をしようとも考えた。だが、それより先に始めてしまった心地よい行為を、途中でやめることなど出来なかった。
結局、果ててしまうまで指を動かしていた。
浴衣ということで、ショーツを穿いていなかったこと。明日の試合を前に、禁欲生活が続いていたこと。亮の弱々しい姿に、胸が高鳴ってしまったこと。隣の睦言に、身体を熱くしてしまったこと……。それらすべての事象が重なり合って、晶を淫猥にしてしまったのだ。
「………」
むくり、と身体を起こす。はだけた胸元を正して、立ち上がる。
「あ、ん……」
にちゃ、と太股の奥が蜜にぬめった。歩くたびに生まれてくるその淫靡な感触が、正直気持ち悪い。
「……アキラ?」
「!?」
どきりとした。エレナが身を起こして、自分を見ているではないか。
しかしエレナは、まだ夢と現を行き来しているものか、半開きの眼と平面のような表情で、ぼう、としていた。
「ああ、おトイレですか。失礼しました……」
自分で理由づけて、そのままパタリと布団に戻る。
(ほ……)
晶は胸をなでおろすと、バックから生理用品とショーツを持ち出し、階下のトイレに向かった。
民宿ささらぎは、暗闇に包まれている。だが、怪談話は晶の好むところ。だから、闇の廊下を進むことも、真っ暗な階段を下りることも、まったく厭わない。
そのまま女子用のトイレに入ると、後ろ手に鍵を閉め、浴衣の裾をたくし上げて和式の便器にまたがった。備え付けのロールペーパーに手を伸ばしたところでふいに指を止め、しばらくその体勢のまま何かを待つ。
「………っ」
ぷる、と太股がふるえ、その間から飛沫が散った。水洗トイレの水溜りに音をたてて落ちてゆく。
晶は、改めてロールペーパーから紙を引き出し、何重にもかさねたそれで股間を拭う。水気の多いしたたりを清めてから、新しく用意した紙で今度は粘りつく部分を拭い取った。
水洗のレバーを押す。勢いよく溢れ出す水が、穢れと汚れ物を押し流していった。
晶は立ち上がると、新しいショーツに脚を通す。それを太ももの辺りまで持ち上げると、ナプキンを取り出して中央部に貼り付け、そのままショーツを引き上げた。
これで、またヘンな夢を見ても、いやらしい粘り気はナプキンが吸い取ってくれるだろう。
晶は足音を立てないように客間に戻り、再び布団にもぐりこんだ。まだ、濃密な温もりと体香を残すそれに、自分が演じた痴態を思い起こして身体が熱くなる。
「……はぁ」
同時に、えもいわれぬ寂しさが沸き起こってきた。
(やっぱり………明日、お願いしようかな)
何とか目を瞑り、眠気を呼び込もうとする晶は、本気でそう考えていた…。