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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-7

「本田さん、勝つ気満々だ」
「そりゃ、そうでしょうが」
 風祭の弱気な言葉に、チームメイトから嘆息が出た。今日、この試合にかかっている掛金は、あきらかに草野球のレベルを超えてしまっている。なにしろ、お互いの会費の全額が、勝負台に載せられているのだから。
「どっちかのチームは、これでパア」
 負ければ、当然そうなる。
「み、みんな、頼むぞ!」
 へ〜い、と気のない返事が続いた。これは、風祭の軽挙が生んだ事態だ。士気があがろうはずもない。しかも相手には、“荒”の近藤晶がいる。
「じゃ、始めましょうか」
 今日の審判は、同じ町内の草野球チームの面々がかって出てくれた。そのチームのキャプテンが、主審を務める。
 彼の合図で、両チームの選手が中央に集まった。
「………」
 期せずして、向き合った晶と亮の、互いの視線が合う。
(な、なによコイツ……)
 火花も散らんばかりに気合をぶつけてくる亮に、晶は少し戸惑った。相手チームの誰もが、試合が始まる前からほとんど戦意を無くしているというのに。
「礼!」
 試合開始の宣言が終わり、後攻めとなるチームがグラウンドに散った。亮は、ライトの守備につく。本職は捕手だが、味方投手との呼吸を考えた風祭の起用だ。
 相手の一番打者が、打席に立った。なんとなく余裕のあるその仕草は、既に敵を呑んでいる。
(まずいな……)
 亮は、味方投手の初球とその配球を見てそう思った。なにも考えていない。ただ球を放っている。
 案の定、同じコースにストレートを続けたため、簡単にレフト前へ運ばれていた。
 続く2番打者は、定石どおり送りバント。手堅い。相手チームは、露骨に勝ちに来ている。
(近藤は、3番か)
 次の打者は、晶だった。きり、と、バットを構える。コンパクトだが、力の抜けたいい構えだった。下半身を地面に貼り付けたような安定感を感じる。いかにも、打ちそうな雰囲気をもっている。
 そういう打者には、えてして甘い球が行きそうなものだ。変化球が抜けたのか、真ん中高めにボールが入った。
(まずい!)
 と、思ったときには、晶のバットが一閃し、打たれたボールは綺麗な放物線を描いて空へと舞い上がっていた。
 この打球の軌跡は、川へ直行だ。しかし、諦めない。亮はそれを必死に追いかける。ひょっとしたら失速して、伸ばしたグラブが届くところまで落ちるかもしれないと…。
 しかし、そんな亮の想いは虚しく水音が跳ねた。
「よっしゃぁ!!」
 晶の先制2点本塁打。相手チームのボルテージはあがる。その後に得るものが大きい試合で先制したのだから、盛り上がるなというのも無理な話だろう。
 続いて打席には、本田が入った。本塁打を打たれた後の投手は、その初球は甘い。
 今度はレフトに放物線が上がる。こちらは、川まで届かないが、レフトの頭を大きく越えていったボールは、フェンスがない川岸を転々と転がっていく。
 鈍重な本田が、歩いてベースを一周できるぐらいに、余裕のあるランニング・ホームランとなった。いきなり、3点のビハインドを亮たちは背負うことになったのである。
 …この回はこの3点で終了した。
 5番打者は、セカンドライナー。6番打者はセンターフライ。7番打者は、長見だったが、彼はキャッチャーフライにそれぞれ終わった。しかし、長見を除いては、芯を食った鋭い当たりだったので、明らかに味方の投手は、タイミングをつかまれている。
 これでは、次の回まで持つかわからない。
「リーダーさん」
 亮は、打席に入る前に風祭に話し掛けた。3点を先行され、既に泣き顔の風祭。そんな風祭に、言葉を続ける。
「次の回から、俺にキャッチャーをやらせてください」
「ああ、いいよ……」
 えらく、あっさりしたものだ。亮は思わず苦笑する。しかし、すぐにその笑みを引き締め、集中力を高めて打席に向かった。
「よろしく」
 相手の捕手が長見だったので、軽く会釈する。長見は、にやにやした顔を亮に返した。
「リベンジかい?」
「そうだよ」
「お生憎さま。賭け試合の晶は、あの時の勝負なんか比べ物にならねえぜ」
「そうかも」
「へえ、余裕だね」
「栄輔!!」
 マウンドから起こる、怒気を孕んだ晶の声。さっさと構えろ、と言いたいらしい。
 亮は、晶にも会釈をすると、打席に入った。バットを構え、晶の顔を見据える。どんな、些細な動きも見逃すまいと、その挙動に集中する。
 晶の脚が、高く挙がった。そして、柔らかな投球フォームからはじき出された速球が唸りをあげて、長見のミットに吸い込まれる。


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