投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 50 『STRIKE!!』 52 『STRIKE!!』の最後へ

『STRIKE!!』(全9話)-51

 ぶん! バシッ!!

 エレナのバットが空を切り、亮のミットに衝撃が走る。それは、明らかに晶の全力ストレート・レベル2だった。構えたところは、インコースいっぱい。ベースをかするような、絶妙なコントロール。コースを散らすとわずかに球威の落ちる晶にとっては、今投げられる最高の球だった。
「FANTASTIC!!」
 空振りをしたはずのエレナはやっぱり喜んでいた。その様子に、思わず長見は頬が緩む。
(……これは、玲子さんにいい報告ができそうだ)
 直樹もまた、笑みを浮かべたひとりだ。
 今日は大学側の所用で玲子は練習に顔を出せない。ただ、新入部員が来ることは長見から知らされていたらしく、そこで、夜に彼女の部屋まで報告に来るように言われているのだ。“ひとりでね♪”という付帯事項も添えて。
 1番打者と大砲の補強。同時に片付いた懸案を玲子に話せば、きっと喜んでくれるだろう。若い彼の精神は、その後の熱いひと時を、どうしても妄想してしまう。
 その一瞬の隙が、彼にとって悲劇を生んだ。

 きん!

「あ、キャプテン!」
「ん?」

 どむぅ!

「はぅあ!?」
 エレナが放った強烈なライナーを、まともに股間に受けてしまったのであった。―――合掌。



「みなさん、楽しい人たちですね」
 練習も終わり、例の蓬莱亭でエレナの歓迎会(といっても、ふつうに食事をするだけだが)をした後、その場で解散となった。帰る場所は同じだから、長見とエレナは同じ道を通って帰路についている。
「それに、チームワークよいです」
「んー、そうだな。それは認める」
 最初はエレナのことで話が盛り上がっていた。その中で、長見は秘密にしておきたかった同じ住所であるという事実が、あっさりとエレナ本人の口から露呈され、散々からかいの対象にされたのがすこし恥ずかしかった。
 長見は、エレナの口から、
「ナガミとは、そんなんじゃありませんです」
 といってくれるのを期待していたのに、一向に言い出さないものだから、慌てて自分からそれを否定しにかかった。いつもは斜に構えている長見だが、汗水たらして必死に弁解している様子があまりに滑稽だったらしく、火に油を注いだ形でさらにからかわれてしまったのは、彼としても不覚である。――――しかし、そのとき、必死で自分との仲を否定する長見に対して、寂しそうな顔をしていたエレナの表情に、やはり彼は気づいていない。
「みなさん、野球が好きなんですね」
「あー、少し、歪み入ってるけどな」
 途中からは現在のチーム状況について話題が変わった。しかしどこをどう間違ったか、それはプロ野球の話にすり替わり、移籍情報や来季の展望に関する討論へと変化していった。皆が皆、それぞれの贔屓チームが優勝するということを、根拠になりそうもないことまで挙げ連ねて、日曜日のある番組のように激論を交わすのだ。
「キドさん、詳しいです」
「まあ、あれは特別だな」
その中でも、亮の識見と情報量は卓抜していた。12球団の全ての戦力を投手・野手にわけて、まるで評論家のようにそれぞれを分析していくのだ。しかし最終的な優勝チームに自分の贔屓を出すあたり、ファンの範疇を出ないのだろうが。
「その、キドさんと、アキラはおつきあいしているのでしょう?」
 練習のときはかなりヒートアップした戦いを演じたが、同じ女同士ということもあり、エレナと晶はすっかり意気投合していた。だからエレナは彼女のことを名前で呼ぶようになっている。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 50 『STRIKE!!』 52 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前