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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-243

 ミシミシッ……ビキッ!

「グ、ゥッ……」
「セーフ!!」
 審判の手は逡巡も無く水平に振られていた。これで長見の生還が認められ、城二大は1点を返したことになる。6回の時点で1−2としたのは、後半戦を迎えるにあたり大きな足がかりとなるだけに、城二大のベンチは沸きに沸いた。
「エイスケ?」
 一塁ベース手前に来たところでフライを捕られランニングを止めていたエレナが、好走塁で得点を奪い取った長見の側に寄ろうとしたとき、すぐに異常を察した。ベースに手を伸ばし、滑り込んだ状態のまま、長見が起き上がる動きを見せなかったからだ。
「エ、エイスケ!」
 様子がおかしい恋人の所作に、不安を覚えたエレナ。呆然と彼をみやる津幡や審判を押しのけるようにして彼の体をその腕に抱える。
「い、いてぇのな……も、ちょい、優しくしてくれっと、嬉しい……」
 苦痛に歪みながらも、エレナに心配かけさせまいと無理に笑顔を作ろうとする長見。しかし、それが逆に痛々しい。
「ARE YOU ALL RIGHT!? し、しっかり、しっかりしてくださいですッ!」
「い、いたいってば……ゆ、ゆらすなぁ……」
「……ドクターを!」
 悲鳴にも似たエレナの叫びを足元に聞き、ようやく我に帰った主審。彼もまた、事務室に向かって荒げた声をあげる。
 ざわ…と、ここにきて事態を察したグラウンド全体がさざめきを生みだした。
「ど、どうしたんだ」
「ケガか? ケガでもしたのか?」
 城二大の面々と、櫻陽大の面々。そして、観客の皆が移した意識の先にあるものは、エレナに背中を抱かれるようにしながら苦しげに体を丸めている、長見の姿であった。



『選手の交代をお知らせします。センターの長見に代わりまして、赤木……』
 場内のアナウンスが、再びざわめきを生み出した。
「お兄ちゃんだ」
「そうね……だけど……」
 桜子と由梨が、複雑な表情でグラウンドを見つめている。縁浅からぬ赤木が試合に出てきたのは応援のやり甲斐が増えていいことだとは思うのだが、不測の事態が城南第二大学に起こったことを、この交代が如実に知らしめていて、二人に微妙な心細さを与えていた。
「あのセンター、ものすげえいい動きをしてたんだがな」
「そうですね」
 壬生の呟きに、智子は相槌を打つ。
「昔、ガイアンズにいたジェーン・マックスを思い出したよ。脚が速くて、位置取りのうまい外野ってのは、それだけで凄え戦力なんだが……」
 果たして彼に代わる選手には、その力があるのかどうか。ベースコーチャーがいないことを見ると、どうやら選手層は相当に薄いと思える。
「……代わりの奴は、脚が重そうだな」
 見たところ、ケガをした長見の代りにその位置に入った選手(赤木)は、どう見ても鈍重に見えた。そのあたりは、どうしても厳しい視線になってしまう壬生である。
「やっぱりダメだったか」
 これは、櫻陽大のベンチに戻った二ノ宮の呟きである。
「嫌な音がしました。ひょっとしたら、アバラを……」
 津幡は、タッチの際にミットを通して響いてきたその鈍い音を、間近で聞いた一人である。自分のタッチが、相手に怪我を負わせたのではないかと、かれの陰鬱な表情はその悔いを露わにしていた。
「試合中の話だ。故意じゃないってのは、向こうもわかってるさ」
「………」
 その証拠に、タンカに乗せられた長見は誰にも何も言わなかった。痛みで口を開けなかったというのはあるかもしれないが、それでも彼の目は、誰かを非難するような暗さを全く帯びてはいなかった。
 心内を知ることなどできない。だが、今は、それよりも考えなければならないことがある。
「薫、勝負の最中なんだぞ」
「は、はい。すみません」
 珍しくも冷静さを失いかけているチームの要を、叱咤する二ノ宮。津幡はそれに応えるように、ばちばちと自らの頬を叩いて、気合を入れなおしていた。




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