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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-175

「お、お願いします」
 ブルペンマウンドに立ち、先輩である控え捕手に声をかけてから、京子はまずは軽めのピッチングから始めた。
(まさか……)
 櫻陽大という強豪チームの中にあって、1年生でしかも中途入部者である自分が、まさか3日後の試合ですぐにベンチ入りすることになり、こうしてブルペンで投球練習まで行うことになるとは想像もしていなかった。
 軟式野球部ということもあるから、強豪とはいえ櫻陽大の全部員は20名を僅かに越えるだけだ。それでも、ベンチ漏れの選手さえ出ない他の大学に比べれば、飛躍的に人数は多い。
『弓波くんが、肘をいためたからよ』
 控え投手が戦線を離脱したため、その空席に投手である自分が据え置かれたという千里の言い様はわかる理屈だ。しかし、先輩の中にも投手経験者はいるはず。
『紅白戦で、一番良かったのは醍醐だからな』
 主将・二ノ宮の言葉が蘇る。確かに、入部2日目の紅白戦では、控え組の2番手投手でマウンドに登り、並み居るレギュラー陣をことごとく打ち取った。しかし、たったそれだけの結果でベンチ入りを認められたのだとしたら、この野球部は本当に実力主義を徹底している。
 ベンチ入りを申し渡され、「17」という背番号入りのユニフォームを手渡されたとき(余談だが、隼リーグでは1〜30までの数字の中で自由に番号を決めていいことになっている。櫻陽大では本来ならば入部と同時に希望の番号をチームに申請し、それをユニフォームに貼り付けたものをすぐに貰えるのだが、中途入部ということもあり、また、サイズの関係上、京子は特注のそれを試合前日に受け取ったのである)、さすがに先輩たちへの遠慮があった。しかし逆に、その先輩たちから励まされ応援されたので、その時は不覚にも京子は目の奥に熱いものを感じてしまった。
 チームプレイに馴染もうとしなかったこれまでの自分が、なんと器の小さいものであったかと、改めて思う。この充足感は、孤独だった賭け野球の中では絶対にありえないものだ。
 京子はそんな先輩たちのことを思い、ピッチングに熱を入れた。ブルペンとはいえ、一球一球に魂を込めるようにして投球を続けた。
「タイム!」
 6回の裏に進行し、今井が再びピンチを迎えたとき、ブルペンを窺っていた日内はベンチワークを発動させた。
 タイムを取り、千里に言伝を与えマウンドに送る。投手の交代を告げるためだ。
「京、出番じゃ」
「はいっ!」
 日内の言葉に従い、京子はマウンドに向かった。その場所には、内野守備陣が既に集まっている。もちろん、一塁を守る管弦楽も、その中にいた。
「醍醐、頼む」
 かすかだが、肩で息をしながら今井はボールを京子に手渡した。塁上に2人の走者を残しマウンドを去るのは、先発として忍びなく情けないものがあるが、目の前にいる少女は紅白戦のとき十分すぎるほどの結果を残している。
 だから、彼女に全てを託すことが出来る。今井はそう思っていた。
「塁は少し埋まってるけど、まだ1点差あるから大丈夫だよ。同点にされても、逆転されても、僕らなら充分、取り返せるから」
 津幡の言葉に頷く京子。ベンチ入りが決まった瞬間、京子は津幡に事細かく自分の投球スタイルを聞かれていたから、彼のリードは信頼できると考えている。
「紅白戦のときみたいに、落ち着いてやればいい結果は出るはずよ」
 千里の激励を最後に、内野陣は守備位置に散った。
 管弦楽が何も言ってくれなかったのは頗る不満だったが、今はそんなことに構っているときではない。
(………)
 公式戦のマウンドというものは、随分久しぶりだ。



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