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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-149

「あの人、まだそんなことやってるのか……」
「なんか、あんの?」
 お調子者と言う意味では京子の目から見ても同義に映る管弦楽が、思いがけず深刻な表情をしているので気になってしまった。
「僕はその人に初めて野球を教えてもらったんだ」
 遠い目で、管弦楽は続ける。
「野球に対して何処までも純粋で、真面目な人だった。子供の目から見ても、お世辞にも上手い人ではなかったけれど、それでも泥だらけになって懸命に白球を追いかける姿に僕は憧れていた」
「へえ……」
 相手の都合をわきまえない傍若無人なこの男にもそんな時期はあったのか。京子は、管弦楽の過去に興味を覚え、話の続きを促すように待っている。
「その人が高校に進んで、なんとかベンチ入りの選手になったときに、春のセンバツに出場することが決まったのだ。その時は、予選でも試合に出られなかったのだが、“ひょっとしたら甲子園で出番があるかもしれない”と、前向きに言っていたよ。でも……」
 管弦楽の話は続く。
「レギュラーを占めていた下級生の不祥事が発覚して、チームが甲子園出場を辞退してしまったのだ」
 その辺りから、あの人は少し変わってしまった、と管弦楽は話を結んだ。
 彼の話を継がせてもらえるならば…。
 風祭が最上級生となり、初めてベンチ入り選手として臨もうとした春のセンバツ大会を辞退する羽目になった後、その不祥事を起こした下級生たちのさらなる悪事が発覚して、夏の大会は予選の出場さえできなくなった。
 必死にしがみつくようにして、3年になってようやく念願の背番号をもらった風祭だったのに、結局は公式戦に1試合も出ることがなく、不本意のまま高校野球を終えることになってしまった。しかもそれが、自分が関与しないところでの不始末であるだけに、純粋に頑張ることに対してなにか絶望を感じたものか、その後、済し崩しに賭け野球にのめりこむようになったという。
「憧れの人が堕ちていく様を見るのは、忍びなかったよ」
「弱い人間だね」
 京子は、鼻を鳴らす。管弦楽の眉が少し歪んだが、すぐにそれは落ち着きを取り戻した。気色ばむ様子を期待していたのに、京子としてはつまらない。
「否定はしないよ」
「いやに、あっさりしてるのね」
「僕の眼は、もう未来に注がれている」
「………」
 気障なヤツ。感傷を抱いていたらしい先ほどまでの、少しだけ寂しげで何となく放っておけない気分にさせる彼の表情は何処かに飛んでいた。
「そして僕のいう未来とは、リーグ戦に優勝し、甲子園に行くことだ」
「はぁ? 甲子園?」
 大学の、それも軟式野球のリーグ戦に“甲子園”と言う単語がどう結びつくのか。考えあぐねていた京子だったが、管弦楽が聞きもしないのに熱く説明を繰り返すので事情を全て把握した。
「しかし、栄光ある我が大学の行く手を遮らんとする最大の難敵がいる! それが、近藤晶だ!!」
「!?」
 思いがけない名前の登場に、京子は面食らう。何しろ、賭け野球の世界では知らぬ者のない豪腕投手だ。賭け野球からは足を洗ったと聞いていたが、まさかこんなにも身近なところで名前が出るとは思わなかった。
「あの近藤がいる城南第二大学に勝つには、醍醐京子、君の力も必要なのだよ!!」
 びし、と指を指された。まるでとある怪しいセールスマンに暗示をかけられた瞬間のように、気圧されて言葉をなくしてしまう。
「ふ、ふん……あたいには興味ないね」
「ならば、こういうのはどうだ」
「?」
「今度の賭け野球で、僕はバッカスの助っ人に入る。そのとき、君から全打席安打を放って見せよう! 僕の実力を知れば、君も協力せざるを得なくなるはずだ!!」
「へ、へえ……言ってくれるわね」
 管弦楽の打力は、同じ中学だった京子もよく覚えている。なにしろ、彼の打球が背の低い金網を越えて校舎の窓を何度も割るので、“管弦楽ネット”なるものができるほどだったからだ。


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