『STRIKE!!』(全9話)-148
「で、なんでアンタがあたいの所に来るわけよ」
櫻陽大学のとあるゼミ教室。
必修の授業が終わった後、醍醐京子は、今度助っ人に入る草野球チームとの顔合わせに向かおうとしていたところで、管弦楽に捕まった。
「頼みがある」
「イヤ」
即答である。にべもない。
「あ、でも、これぐらいくれるってんなら、考えてもいいけど」
右手を大きく開いて見せた。非常に指が長く、ソフトボールでも簡単に挟めそうである。
「五千とは。意外に安いではないか」
「ばーか! 一口“万”に決まってるじゃない!」
「……愚かな。相変わらず、賭け野球にのめり込んでいるのか」
「何とでも。“荒”の近藤晶が足を洗ってから、あたいは実入りがよくってね。話がたくさん舞い込んでくるのよ」
ふふん、と胸を張る。
「小さいな」
「!」
管弦楽は首をわずかに反らして、鋭く飛んできた拳をかわした。さらにその拳が変則的な軌道をえがいて、管弦楽の首を狙ってくるが、それさえも彼は簡単に避けた。
「手が早い」
「ふん。……反射神経だけはいいねアンタ」
面白くなさそうに、咄嗟に出てしまった拳を収める京子。暴力は嫌いなのだが、胸のことを言われてつい頭に血が昇った。
……弁護するわけではないが、ひとつ言っておこう。
管弦楽が“小さい”といったのは、賭け野球にのめりこんでいる彼女の人としての“器”のことであり、張ったときに何も揺れなかった“胸”のことではない。だから、それを指摘されたと思っている京子は、完全に勘違いをしている。
「それで、返事だが」
「お断り!」
腕を組んで、横を向いた。もう話は終わりとばかりに、唇を尖らせたままそっぽ向いている京子。胸のことを馬鹿にされたと勘違いしたままなので、ことさら意固地になっているのは否めない。
「やれやれ……仕方ないな」
「な、なによ」
「今度の賭け試合はいつだ?」
「はあ?」
京子が怪訝な顔つきを管弦楽に見せる。
「来週の水曜……祭日の日だけど、それがどうしたってのよ」
「例の河川敷か? 相手は何処だ?」
しつこい。いい加減に嫌気がさしたが、答えておかないといつまでたっても付きまとわれそうだ。
「バッカスって言ってた。なんだか、お調子者がリーダーやってるチームらしいわ」
「なに?」
“バッカス”という名に管弦楽が反応した。
「風祭、とか言わなかったかそのリーダー」
今度は“風祭”と言う言葉に京子が反応した。
「あんた、知ってるの?」
「その弟と、同級なのだ。兄貴がバカで間抜けでお人よしでお調子者で困っている、とか言うぼやきを何度も聞いた」
管弦楽はそれを言ったのが自分のようにため息を吐いた。