初めての冬-1
真っ暗な空からヒラリヒラリと降る雪は灰色の道路を黒く染めていく。まだ18時だというのにすっかり空は暗くなってしまっていた。毎年11月の末日この雪を見ると、あぁ冬がきたか、なんて憂鬱な気分になる。子どもの頃はあんなに純粋な気持ちで雪が降るのを今か今かと待っていられたのに。大人になるとやはり現実的に、雪かきなんてめんどくさいとか、スタッドレスに履き替えなきゃ、なんていう考えが先立ち、やっぱり冬の訪れは憂鬱になるのだ。
そんな僕の気持ちなど露知らず少し前を歩く僕の彼女は、鼻の先を赤くして微笑みながらこちらを振り返った。
「栄太、初雪だね。」
首を傾げて僕に笑いかける彼女。手のひらを上に向けて雪をそこに乗せてみたりしている。
「なぁ、弥恵。初雪がそんなに嬉しいか?そもそも弥恵は寒いの嫌いだろ?」
僕の言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、彼女はすぐにまた僕の大好きな笑顔を見せた。
「ん〜、寒いのは嫌いだけど初雪は好きよ。積もると確かに嫌だけど、初雪って綺麗じゃない?それに初雪ってなにがあるって訳じゃないけどワクワクするの」
そう言って含み笑いをする彼女。そんな仕草が彼女を幼く、しかし魅力的にする。
「弥恵はやっぱりまだ子どもだねー」
そう言われた彼女はイーっと小憎たらしい顔を見せ、また前を向いて歩き初めてしまった。彼女は子ども扱いされると拗ねてしまう、わかっていて毎回彼女をちょっと苛めてやりたくなるのだ。そして毎回のごとく僕がすぐにご機嫌取りをする。
「ほーら、拗ねない拗ねない。」
小走りで彼女に追いつき、頭をポンポンと叩いてやる。
「もぉー、また子ども扱いする」
ぷんっ、っと効果音でもつきそうなぐらい頬を膨らませ僕から顔を背けた。これまた非情にかわいい、もっと苛めてしまいたくなるのだがこれ以上すると本当に機嫌を悪くするからな。まぁそこがまた彼女の子どもっぽさたる所以でもあるのだが。
「でもまぁ弥恵と見る初雪なら悪くないかな?こうすれば寒い冬もそんなに辛くはないし」
少々ご機嫌斜めな彼女の後ろから手をまわしてフワリと抱きしめる。
「あったかい」
僕より20センチ背の低い彼女は、僕を見上げながら僕の手にその手を重ねた。冷え性の彼女の手はすっかり冷たくなってしまっている。少しでもあたたかくなるように、僕は彼女の手を自分のそれで包みこんだ。