Twilight Closse]T 〜すれ違い〜-2
なし崩し的に中に入れられた俺は度肝を抜かれた。
キレイなのだ。
あれだけ酷かった縮小版ゴミ屋敷が完全とは行かずともキレイになってた。
散乱していたカップ麺ガラはどこから出したのかビニール袋の中に超圧縮で入ってたし、散らばってた本は全て角に積み上げられていた。てか、この家にクッションがあるとは思わなかったぞ。奥山。
俺はその予想外なクッションを枕に寝かされ、奥山は濡れた布を持ってきてくれた。
べちゃっ…
布は必要以上に水分を吸い込んでいた。
水が頬を塗らして床に落ちる。
『大丈夫ですか?』
濡れた細腕でスケブに文字を書く奥山。濡れ手で触ったからすこしくしゃっとなった。
「あぁ…死んでない」
少し水浸しだがな。
「つか…その…悪かった。ゴメン」
奥山はキョトンとしてたが、俺は構わず続けた。
「何か、変な物を見られるのが嫌だったのに…無理矢理掃除させて…しかも、俺途中で抜け出て…」
特に謝罪の言葉は考えてなかった。西野は「あんたの誰かを思いやる気持ちは評価す
る」と言った。
言われた通り、すまない気持ちだけを言葉にして、奥山に伝えた。
「本当にゴメン…もう無理強いはしないから…また、飯作りに来て…良いか…」
即席で言った割には、結構決まったと思う。もう二度とこんなセリフ吐けない。
問題は、奥山が未だキョトンとしてた事だ。
「………!」
あ、何か気が付いたっぽい。
会って最初は反応の無い子だなと思ってたけど、以外と感情的でコツさえ掴めば何となく気持ちが分かるようになった。素人なら今のは気付かなかったな。
…何を思ったのか、一冊の本を俺に渡した。
…これは…
「お前…これ俺が拾った…」
そうだった。
掃除で拾った奥山の「恥ずかしい物」
『開けて見てください』
訳が分からない。
あの時、あそこまで見られるのを嫌がったのに、今度は見てください?なんじゃそりゃ。
『ひらの君はかん違いしてます』
そう言ってその本を開いて俺に見せた。
中には写真…男女が二人、小さな女の子が一人の写真が、たくさん張られてる。
アルバムだった。
『お父さんとお母さんです』
無表情ながら、少し奥山の顔が綻んだ。
『なくなったのが見つかって、嬉しかったんです』
…
……
………
俺の記憶の中の震える奥山が、今の言葉で一変した。
つまりだ。
あれは俺を拒絶したのではなく、見つかって感極まって嬉しい震えで、
俺が逃げて心配だったからすぐに開けようと通信を切って、
俺が来そうになったからドアを開けて出迎えようとして
要するに…
「最初から…怒って…ない…?」
『はい。すごく嬉しいです』
「何よ…それ…」
あ〜、バカだ。
それも今世紀最強極上バカだ。
何よ。このオチ。
予想外だけど、かなりばかばかしいぞ?
西野?あいつに何て言われた?
(「泣かないでって」)
泣いた?
こんな事で?
「フフフ…ハハハハハハハ…」
嗚呼…あんまりバカ過ぎて笑いが止まらねぇ…
「?、?」
奥山はまたキョトンとなってしまった。
笑えよ奥山。俺はバカだし今日の昼はかなり旨い西野ン家のラーメンだぞ。
「ハハハハハハハ…」
自分のバカさと、どこから来るか分からない安堵に、俺はしばらく笑い続けた。