刃に心《第−1話・剣に誓った初恋〜後編》-2
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「此所が私のとっておきの場所だ♪」
楓に連れられ、森を10分程歩いて辿り着いた場所は、小さな滝のある清流だった。
「すごい!」
疾風はその澄みきった清かな流れを見て思わず叫んだ。
その様子を見て楓は自慢げに胸を軽く逸らしている。
「そうであろう♪しかも、お前と私しか知らぬのだぞ!」
「本当!?」
「ああ!」
疾風は清流に近付いて靴を脱ぐと足をつけた。
冷たい水はとても気持ち良かった。
そのすぐ隣りに楓も座る。
「すごい…」
「先程からお前はそれしか言わぬな」
楓が苦笑する。
「それしか言えないっていうか…とにかく、すごいんだよ♪それにこんな場所を知ってる楓もすごい♪」
「そ、そうか…♪」
楓は笑うと、照れ隠しのように水につけた足をバタバタと上下させる。
「秘密だぞ…二人だけの…」
「判った。誰にも言わない♪」
疾風は満面の笑みを見せた。
また、ドキドキが楓を襲った。
最近、ふとした拍子にこうなってしまう。最初は気のせいかと思ったが、何回も起こるため気のせいではないようだ。
そして、ドキドキはどうも疾風が近くにいると起こるらしい。
「…誰にも言うでないぞ」
楓はさらに激しく足を動かした。水飛沫が飛び跳ねる。
しばらくすると、ドキドキは治まってきた。
これもいつものことだった。
二人は水辺で1時間程過ごすと、家路についた。
その帰り道、話をしながら歩いていた疾風が急に立ち止まった。
「どうしたのだ?」
「シッ…」
不思議そうに問い掛けた楓の言葉を遮る。
疾風の目は先程までとは違い、鋭く光っていた。
楓の心臓がトクン…と一度だけ脈打った。
その横顔を見て、楓の頭に漠然と格好いいという感想が浮かぶ。
「何かいる…」
小さく疾風が呟いた。
楓も慌てて耳をそばだてる。すると、周囲からはガサガサという音がしている。それも、一つではなく幾つも。
楓は思わず疾風のシャツの裾を掴んだ。
疾風は楓を庇うようにして片手を広げる。
ガサガサが近くなり、近くの茂みから野犬が3頭現れた。しかも、その中の1頭は先日、疾風が容赦無く石を当てた黒い奴だった。
どれもが牙の隙間から唸り声をあげている。
「楓、ちょっと離れてて…」
疾風が背後の楓に声を掛けた。