刃に心《第13話・サイレントキラー〜無音の殺し屋》-1
部屋の中、疾風は電灯にきらめく一本のナイフを見ていた。
最近、良くないことが多いとは思っていたが、流石にこれを事故で片付けることは出来ない。
時計を見た。午後8時半。
疾風はクローゼットを開くと、大きめの上着を着込み、苦無と匕首を仕込むと部屋を出た。
「何処か行くのか?」
部屋を出ると丁度楓に出くわした。
「ちょっとコンビニまで」
怪訝そうな楓に疾風は短く答えた。
「私も一緒に行こうか?」
「いや、いいよ。何かと夜道は危ないし、すぐに帰ってくるから」
「それならば良いのだが…」
「じゃあいってくるよ。後、父さんと母さんに言っておいてくれない?」
「ああ、判った。気をつけてな」
「よろしく」
そう言うと疾風は玄関に向かった。
《第13話・サイレントキラー〜無音の殺し屋》
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玄関で靴を履き替えていると背後に気配がした。
「兄貴、どっか行くの?」
「ああ。コンビニまで」
振り返ることなく疾風は言う。
「ふ〜ん。じゃあバニラアイスよろしく」
靴紐をしっかりと結ぶ。トントンと爪先で地面を叩くと扉に手を掛ける。
「判った。いってきます」
疾風は扉を開けた。
夜気は涼しく、細い三日月が空で弓の如く張り詰めている。
「一時間」
唐突に霞は言った。
それは静かに、だがはっきりとした響きで疾風の耳に届いた。
前に出そうとしていた疾風の足が止まる。
「一時間したら私も出かけるから」
霞はそう続けた。
「…それまでには帰ってくるよ」
「いってらっしゃい」
背後で扉がバタンと閉じる。冷たい空気が肌で感じながら、疾風は歩き出した。