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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第12話・サイレントトランスファー〜無口な転校生》-8

◆◇◆◇◆◇◆◇

「何か…五月蠅いな…」

疾風の独り言を気にすること無く、刃梛枷は鞄からコンビニの袋を取り出した。中身を机の上に広げる。
アンパンが一つに牛乳が一つ。以上。
毎日、これだった。

「いつも思うんだけど、それだけで腹減らない?」
「……減らない…」
「俺だったら、もう2、3個欲しいところだな」
「……貴方と私は違う…」
「まあ、それを言ってしまえば終わりだけど…」
「………」

刃梛枷は無言でアンパンの包みを開いた。中からパン本体を取り出し、小さくちぎっては口に運ぶ。

「…アンパンって言えば、あのヒーローって頭が本体なのか、身体が本体なのかどっちだと思う?」

苦し紛れのアン○ンマン談義。
刃梛枷は手を止めて、疾風を見た。その顔は何処と無くキョトンとしていた。

「…えっと…知らない?アンパ○マン」
「……知らない…」

結構、世間知らずのお嬢様だったりして…
疾風がそう思っていると、刃梛枷は僅かに顔を伏せた。

「……私に教えられたことは一つだけ…」

そして、またア○パンマンじゃなくて、アンパンをちぎり始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「さて帰るか…」

夕焼けが窓から差し込み、教室を赤く染め上げる。疾風はこの日提出の宿題を仕上げていた。
楓は希早紀に誘われて近くのケーキ屋に行っている。
疾風は身体を伸ばすと鞄を持ち、教室を出た。
廊下も教室と同じくオレンジの光で色付いている。
純粋に綺麗だなと思った。

「癒される…最近は事故っていうか、不幸が多いからな…厄年が早めに来たのかな…?」

くだらないことを言うと、疾風は反射的に自分の鞄で顔を覆った。
トスッと何かが刺さる音がした。
一旦、鞄を捨てると疾風は振り返って身構えた。前髪と眼鏡に隠された瞳が鋭く光る。
廊下の先の角を見つめる。何も出てこない。先程、僅かに感じた殺気もない。
相手は去ったのだろうと思い、ゆっくりと構えた腕を下ろすと、鞄に刺さったものを引き抜いた。
細身だが、鋭利な投擲用のナイフが疾風の頭の代わりに鞄を穿っていた。

「…厄介事は好きじゃないんだけどな」

疾風は小さく呟き、ナイフを鞄にしまった。


続く…


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