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■LOVE PHANTOM ■
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■LOVE PHANTOM■最終章■-4

「靜里、どうしたの?」
幸子は泣き崩れた靜里の肩を掴むと、軽く揺すった。細い肩が、小刻みに震え、必死に、大きな悲しみに、耐えているのが分かる。幸子は、靜里の頭を優しく撫でると目を細めた。 「靜里・・」
帰ろうか、と言いたかったが言えず、幸子が言葉を詰まらせ、下を向いた時だった。入り口のほうで“カラン”と鈴が鳴る音がした。誰かが入って来たのである。
それに気がついた幸子は、顔を上げ、その方へ視線を向けた。瞬間、彼女は吸った息を飲み込み少しの間呼吸を忘れた。開いたドアの間からは、攻め込むように、外の光りが伸びている。そしてそれは、薄暗い店内の隅まで照らした。
しかし幸子が驚いたのはそんなことではない。そこに立っている人物を見て、言葉を忘れたのだ。
入って来た客は、光を一身に背負い、入り口から一歩進んだ所に立っている。真っ黒のTシャツに、それと同じくらい黒いGジャンを上に重ね、下も黒のジーンズという服装だった。背丈はそう高くもなく、シルエットだけなら女性にも取れそうなスタイルである。
にもかかわらず、幸子はそれが男だと確信していた。この影は、以前見たことがあ
る。この姿を自分は知っている。
胸の奥で沸き上がる興奮を抑えながら、幸子は靜里を呼んだ。
「靜里、あっちを見てごらんよ」
しかし、靜里は顔を上げる事なく、小さく首を振る。それを見た幸子はため息をつき、靜里の頭を無理やり入り口の方へ向けてやった。
「あれ、あそこに立っているの、誰だ?」
耳元で幸子が囁く。靜里は、真っ赤な瞳を、入り口へ向け、
「・・・あ」
目を見開き、小さく声を上げた。
目の前に立つ、凛とした表情。綺麗な瞳、真っ黒なつやのある髪の毛、そよそよと風が入り込むたびに流れてくる懐かしい香り。靜里は、所々についた埃をいそいそとはらうと、立ち上がった。
「やっぱり・・やっぱり、生きていてくれたんだね」
さっきまでとは違う、新しい涙が、靜里の頬を伝い、離れていく。拭うことはなかった、これは、彼のいなかった、この一年半、ずっと溜めてきたものなのだから。
もうこれが、最後の涙になるのだから。
「再生に、だいぶ時間がかかってな。遅くなってすまない」
「もう、もう死んじゃったかと思った。もう、会えないのかと思った」
靜里は噛んでいる唇が震え、うまく笑えずにいた。
「以前言っただろ。俺は心臓を刺されない限りは死なない」
「もう、バカッ!」
そう言ったのと、靜里が彼に抱き着いたのとは、ほぼ同時の事だった。首に両腕を絡ませ、首の付け根に鼻先をすりつける。懐かしく、新鮮な感覚が彼女を包み混んでゆく。
「おい、少し腕をゆるめろ」
「やだ、絶対離れない!」
そう言うと靜里は、体全体を、塗り混むようにして彼に刷り寄せた。
「・・・・ただいま、靜里」
目を細め、優しく男は囁いた。靜里は静かに目を閉じると、初めて眠りにつく、赤ん坊のような顔付きで、そっと彼の耳元で囁いた。
「お帰りなさい、叶」

END


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