ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-8
「まあ、ケイさんと智香ちゃんってこうして見ていると本当の姉妹のようですわね」
「えっ…いや、そんな…」
「あうぅ〜」
歯切れの悪い言葉でうろたえてる相沢兄妹だったが、香澄の言葉に対する答えは別のところから返ってきた。
「ケイと智香ちゃんはね親戚なのよ。昔はよく三人で遊んだりしたんだけどね。智香ちゃんは小さい頃から可愛かったけど、ケイに関してはモデルになるくらい美人になるとは思わなかったわね」
「奈津ねぇ!?」
ケイは思いがけない人物設定に驚きながら振り返ると普段では絶対に見られない優しい笑顔の奈津子がいたのだった。
あり得ねぇ…。
その笑顔は絶対あり得ねぇよ。
その笑顔の裏に隠された企みを考えると俺は正直この場から逃げ出したくなるくらいの悪寒に襲われた。
「あ、それから香織ちゃん達には準備をしてもらうから控え室の方に行ってちょうだい」
奈津子が三人に控室の方を指差すとみんなは楽しそうに控え室に歩いて行った。
そして、この場に残されたケイは奈津子と二人になってしまいその途端、奈津子の表情は新しい玩具を与えられた子供の様な笑顔になりケイは自らの危機を肌で感じていた。
「圭介、なかなかモテモテじゃない。香織ちゃんも香澄ちゃんも可愛いしいい子だよねぇ。オカマのあんたにゃもったいないってね。にゃはは〜」
奈津子はケイの肩を思いっきりバンバン叩き大笑いしたのだった。
「何言ってやがる。あの二人が見てるのは圭介じゃなくてケイだろっ! 知っててそんなことを言うんだから質が悪いよな奈津ねぇは…」
思わずため息をつきながらやれやれという仕種をケイが見せると奈津子はケラケラ笑いながらケイが一番気にしてることを言ってきた。
「圭介のときには全然モテなかったのに、ケイになった途端にモテはじめるなんてね。おまけに女性としての仕種も自然になってきたし、圭介あんたジェンダーアイデンティティのピンチなんじゃない」
奈津ねぇ…。
それ、本当に止めの一言だぞ……。
トラウマになったらどうしてくれるんだ。
三人が撮影の準備をしてる間、奈津子にからかわれまくりすっかりイジけてしまったケイ。
そして撮影再開の為、ケイを呼びにきた友美は憔悴しきった彼を見て驚きつつもいつもの事だったので苦笑するしかないのだった。
「先輩、ケイちゃんをいじめすぎですよ。まだ撮影が終わってないんですから程々にして下さいね」
圭介を一通りからかいつくし満足顔の奈津子を友美が嗜めるように言うが、奈津子は「はいはぁ〜い」と空返事をするだけで反省どころか既に一仕事を終えたような爽やかな顔をしていたのだった。
「もうっ! 先輩は相変わらずなんだから…。それじゃあケイちゃん、大変だろうけど準備お願いね。智香ちゃん達の準備もOKだから」
そう言いながら友美さんは俺の背中を押し「残りの時間も笑顔でがんばろうね!」と励ましつつ俺と友美さんは三人のところへ歩いて行った。
「お待たせしました。ケイちゃん入りまーす!」
友美の一声で撮影スタッフのみんなが動き始め、ケイもメイクさんから軽くメイクを直されている間に智香達はカメラマンから立ち位置やポーズのレクチャーを受けていた。
そんな三人を見ているとやはり初めての撮影だけあって緊張はしてるみたいである。
香織はそれでも嬉しそうな感じだし、智香は逆にガチガチの状態だったがそれがある意味予想通りだったのでケイの気持ちは少し楽になっていた。
しかし、その二人より香澄がいつもと大して変わらないのがケイには驚きだった。