ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-6
例えば、香澄のようにプライベートでケイとして知り合ってしまった人に対し、どうしても会わなければならない時に女物の服や化粧のことなど普通の男では対処できない部分を友美がフォローしてるのである。
「圭介くん。もう大丈夫? 顔色はさっきよりは良くなってきたけど無理はしちゃダメだからね」
圭介の顔を下から覗き込むような仕種でフレームレスの眼鏡越しから優しく微笑む友美は童顔のせいか年上の女性という感じはしないが、それでも仕種や物腰に時折年上の女性らしさがあり今それを実感させるように圭介の背中に軽く手を添えるとスタイリストとメイクが待っている控え室に連れて行った。
メイクと着替えのすんだ圭介は控え室から出てきた。何度履いてもスカートは慣れない…。
もとから毛は薄いので剃ってしまっていることに抵抗はないが、このスースーする感じはどうしても馴染めない。
ストレートのかつらを不機嫌そうにいじくりながらスタジオに入る『ケイ』。
「じゃあ、ケイ。カメラテストするから自然に動いてみて。あ、今回は笑顔撮りたいから…」
今までシリアスな感じの撮影ばかりだったのに…いきなり笑顔を要求されても…。
圭介は振り返って笑ってみたり、目線を外して笑ってみる…が、どうにも自然に笑えない。
「困ったなぁ…」
カメラマンはスタッフの人に相談に行った。
スポットライトの下に一人残されたケイは「今までのように真顔でいいじゃんか」と思いつつため息をついた。
ヒールが高くて小指が痛かったので足元を見ていると聞き慣れた声がした。
「すげぇ!! ケイ!! 本物がいるよ!?」
ケイがバッと振り返ると香織と香澄それに智香までいたのだった。
なんで!?
ケイが見ていることに気付くと、智香は申し訳なさそうに目線を外す。
そりゃ俺が女装してるの目の当たりにすりゃ気まずいわな…。
ははは…と心の中で圭介は力なく笑う。
そして、ケイがふと三人の後ろから嫌な気配を感じ、視線を移すとそこには嬉しそうにかつ悪意に満ちた笑顔で微笑んでいる奈津子の姿があった。
奈津ねぇ…。
やりやがったなぁ、さっきから姿が見えないと思ったら……。
朱鷺塚姉妹が嬉しそうにすればするほど俺の方は気が滅入ってくるし、そんな困る俺を見て奈津ねぇは嬉しそうにしてやがる。
智香は智香で「お兄ちゃんゴメンね」と言わんばかりに両手を合わせてすまなそうな表情をしていた。
「今休憩中だからケイと話してきてもいいのよ」
ケイはブッと吹き出す。
奈津ねぇ〜!? バレるだろがぁー!!
不適な笑みで奈津子に「ふざけるな!」とメッセージを送るが無視された。
「やったぁ!」と近づいてきたのは香織だった。
ケイの手を取りぐいぐい握手する。
「すごいすごいっ!! 足細い! 指細い! 目大きい! 背高い!」
香織は見たままのケイを単語で表現していく。
かなり興奮しているらしい。
「こないだ雑誌で持ってた鞄買いました」
香織はにこにこ話しかけ続ける。
ケイはあまりしゃべらず笑顔で答える。
まくし立てる様に喋る香織に苦笑していたケイを助けるかのように香澄が香織の肩に手を乗せて柔らかな笑顔で話しかけた。
「香織ちゃん、いきなり沢山話したらケイさんも困ってしまうでしょ。ちゃんと落ち着いてお話しましょうね。ケイさん、こうしてお会いするのは久し振りですね」
香澄に落ち着く様に言われた香織はやっちゃったって感じで少し気まずそうに笑っいたが、その横で香澄は礼儀正しく挨拶をしてきた。
同じ家のお嬢様なのにどうしてこうも態度が違うのかなぁ…等と思いつつケイとして二人に接する圭介だった。
そんなことがありつつ、奈津子はケイ達をスタジオの角にある喫煙所に呼び、友美にみんなの分のコーヒーを頼むと休憩を兼ねた雑談タイムが始まった。
ケイにとっては休憩どころか、逆に針の筵状態であり智香と友美に救いを期待していたが、この二人の防波堤は奈津子と香織の前ではいとも簡単に無力化するという結果になり勢いにのった奈津子と香織にケイは引きつった笑いしか出なかった。