ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-44
「ど、どうしたのケイ? 何、大事な話って」
真剣を通り越して鬼気迫る表情のケイに気圧された香織は驚いた表情を隠せないでいた。
今、自分がどんな顔をしているかのわからないケイだが、心の中である決意をしていた。
それは自身の中に芽生えた香織に対する気持ちがケイとして偽っている自分を許せないが故に決意したことだった。
「ケイ! やっと見つけたわ。あ…香織ちゃん、ちょっと悪いんだけどケイを借りるわね。本当にごめんなさい」
息を切らせながらケイ達のところへ来た奈津子が本当に申し訳なさそうに香織に謝った。
「い、いえ、それより何かあったんですか、奈津子さん?」
「ええ…急な仕事が入っちゃってこれからケイを連れて現場に行かないといけないのよ。明日、埋め合わせをするから今日はこれで許してね」
そう言うと奈津子はケイの腕を掴み急いで出ていったのだった。
この時、ケイと奈津子は急いでいたので気付かなかったが、奈津子がケイを引っ張り上げた時に弾みでケイの衣装のポケットから携帯が落ちたのだった。
そしてそれを見つけたのは香織だった。
「なあ、奈津ねぇ…俺、もうこれ以上ケイとしてやっていけないよ……」
奈津子が運転する車の中でケイは俯きながら呟いた。
「理由は香織ちゃんってとこかしら? 圭介…」
「…………」
前を見ながら話す奈津子に対し、ケイはそのまま黙っていた。
「ふう……そろそろケイも潮時かしらね…」
信号待ちの間に奈津子は煙草に火を点け、ため息と一緒に紫煙を吐き出した。
「……ごめん、奈津ねぇ」
「別に圭介が謝ることじゃないわ。でも、こうなったら仕方ないわね…」
珍しく真面目な表情の奈津子にケイはいたたまれない気持ちになった。
その頃、香織はケイのいた場所で拾った携帯を何やら訝しげに眺めていた。
流石の香織も携帯のメモリーを見るといった非常識なことはしなかったが、なぜか携帯のデザインに引っ掛かりを感じていた。
携帯自体はこれといった特徴はない。どちらかといえば無骨なデザインでストラップも全く付いてなかったのだ。
一言で言えば女の子らしくないのである。
携帯にあまり固執しない香織でさえ可愛らしいストラップが付いているのに、同い年でモデルの仕事をしているケイがこんなシンプルな携帯を使っているのにどうしても違和感を隠せない香織だった。
その時、香織の手にあったケイの携帯が着信音を奏で始める。
本来なら見るべきものではないのを理解している香織だったが、ひょっとしたら携帯を落としたことに気付いたケイが電話をしてきたのかもと思い何気なく二つ折りになっている携帯を開いたのだった。
そして、香織は携帯の画面に表示されている名前を見て思考が止まってしまい身体を硬直させた。
『中嶋幸司』
なんで!?
なんでケイが中嶋の携帯の番号を登録してるの?
それよりなんで中嶋がケイの携帯の番号を知ってるのよ!?
香織の思いとは別に携帯は無常にもそのまま鳴り続けていた。
それからの香織は自分の行動を覚えていなかった。
ケイの携帯の着信が切れてから先程までケイと一緒にいた店を出て廊下をおぼつかない足取りで目的もなく歩いていた。
「あら朱鷺塚さん、どうしたの?」
ふらついた足取りの香織に声をかけてきたのは美弥だった。
「ちょっと、貴女大丈夫なの!? 顔色悪いわよ」
いつもと違う様子の香織に気付いた美弥は香織の両肩を押さえると顔を覗き込んだ。