ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-42
「それに出る人達だって、藤崎さんにケイさん、朱鷺塚さんって感じで綺麗で可愛い女の子ばかりでしょ」
「そうかな? 藤崎やケイはともかく朱鷺塚が綺麗で可愛いってのは好評価過ぎるぞ」
「それは東谷くんが朱鷺塚さんの近くにいるから気付かないだけだよ。朱鷺塚さんって、女の私から見てもすごくチャーミングなんだからね」
千晶の言葉にそうかなぁ、と感じる竜二だったが敢えて口にはしなかった。
そして少し間を開けて千晶は話を本筋に戻して話を再開させた。
「それでね、そんな人達が出るライブに私が出ていいのかな、出来れば出たくないなぁって悩んでた時に励ましてくれたのが朱鷺塚先輩だったの」
昔から千晶が繊細だったのは知っている竜二なのだが今回の千晶の行動に少し合点がいったのだった。
そして千晶が朱鷺塚香澄という一人の女性を自らの目標にしていることもこの学園に入学した当初、本人から聞かされたので香澄の言葉の影響力も竜二は理解していた。
「でもね…今日がんばれたのは朱鷺塚先輩の言葉だけじゃないんだよ。東谷くんが応援してくれたから、私がんばれたんだよ」
千晶が何かを決意したらしく俯き気味だった顔を上げると竜二の顔をじっと見つめて話を進めた。
「……いつからなんだろうね。お互いに名前じゃなくて苗字で呼ぶようになったのって…」
「ん…この学園に入る前くらいからかな?」
「それからだよね、お互いにあまり話さなくなったのって」
竜二はその頃のことを思い出していた。
千晶と話さなくなった理由がひどく子供っぽい理由で馬鹿げていたことを。
そのことを思い出し少し表情を曇らせる竜二に気付いた千晶は笑顔を見せてこう言ったのだった。
「あの時ね、なんで東谷くんが私を突き放したのかがわからなくてずっと悩んでたんだ。私、何か嫌われることをしたのかなってね」
「嫌ってなんか…」
竜二が千晶の言葉を否定しようとした時、千晶は首を振って彼の言葉を止めたのだった。
「でもね最近になって分かったの。どうして東谷くんが私への態度を変えたのかを。それって私が東谷くんに依存しすぎてたからなんだよね…」
正にその通りだった。
竜二が千晶に一線を引いたのは、この学園に入学する前までは常に竜二の後を着いてきていた千晶に一人で何でも出来る様にと思った竜二の思惑だった。
ただ、彼がそうした理由はそれだけではなく、当時の竜二にとって常に自分に着いてくる自分とは正反対で運動の苦手な千晶が邪魔に感じていたのもまた事実だった。
そのことが竜二にとって負い目となり先程の表情となってしまったのだ。
「……俺は…」
「言わないで! 例え事実が違っても私にとってはそれが事実なの」
千晶の必死な様子に竜二は息を飲んだ。
そして彼は気付いたのだった。
もう、昔のままじゃダメなんだと、子供のままでいたら彼女の繊細な心を更に傷付けてしまうと。
千晶を傷付ける…。
そんなことをしたいとは竜二は毛頭も思っていない。
寧ろ彼女を守ってあげたいと思うのが本心だった。
それと同時に千晶のことが好きだという自分に気付いてしまった竜二。
もはやこれ以上は自分を偽れないと竜二が思った矢先だった。
「あのね…りゅうくん、私ね…りゅうくんのこと…」
「ち、ちょっと待て! そこから先は俺が言うっ!」
顔を真っ赤にして、もはや弁解不能なくらい簡単に感情が読み取れる表情の千晶を慌てて制止した竜二は一回深呼吸をすると、一番大事で肝心な部分を言葉にした。
「千晶、俺はお前のことが好きだ! 誰にも千晶を渡したくないから俺と付き合ってくれ」
なんの飾りも偽りもない竜二のストレートな言葉だった。
「……りゅうくん…?」
「ん、まあ、これが今の俺の本音だ。千晶、これからは俺のそばにいてくれるかな?」
「…うん……うん!」
顔を赤くしながら問いかける竜二に涙ながらも笑顔で答える千晶はそのまま竜二に抱きついた。