ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-35
「…ま、しっかりやりなさい。あんたにはあんたなりの思いがあるだろうしね。でも、後悔はしちゃダメだからね」
全ての準備が終わり、奈津子はケイを控え室からみんなが待つ2‐Aの教室へ送り出した。
ケイは奈津子の普段とは違う態度に違和感を覚えながらもいつものケイを演じる為、背筋をしゃんとさせ気合いを入れるとモデルの仕事で培った綺麗な歩き方で香織達が待っている教室へ向かった。
「あっ、ケイ待ってたよ」
「うん、香織ちゃんお待たせ」
教室のドアを開けると既に衣装に着替えた香織が嬉しそうに出迎えてくれた。
他のクラスメイトも似たような感じだったが、みんなそれぞれに忙しそうに動き回っていた。
「そういえば中嶋、相沢の姿が見えないけどどうしたの?」
「圭介なら今日は休みだ。今朝、智香ちゃんから電話があって熱がひどくて休むって言ってたよ」
「はぁ……」
幸司の言葉に香織は残念そうなため息をつくと少しだけ不機嫌そうになった。
「全くあいつってば何もこんな時に休まなくてもいいのに」
「なんだそんなに残念そうにして。実はその衣装を圭介に見てもらいたかったとか?」
ニヤニヤと笑いながら香織を見る幸司。
「そ、そそそんなことある訳ないじゃない!」
顔を真っ赤にした香織は問答無用とばかりに幸司を殴り倒した。
その様子をボーッと見ていたケイは香織の反応にちょっと嬉しい気分になるのだった。
「香織、中嶋、寸劇は終わった? なら最終打ち合わせをするわよ」
加奈子がとても冷静な感じで香織と幸司に声をかけると残るケイと慎也も呼び教室の窓際に置いてある椅子に座るよう促した。
「じゃあ、これからの本番について話をするわね。まず、みんなにはこれを使って貰うわね」
そう言ってレシーバーとイヤホンを幸司と慎也に。
ケイと香織にはヘッドセットタイプのイヤホン付きマイクを渡した。
「これで私がある程度指示をだすわ」
「ちょっと加奈子、なんでここまでする必要があるのよ?」
詰め寄る香織に加奈子は薄い笑いを浮かべると香織とケイを指差した。
「今日の相手が何か小細工を画策するとしたらターゲットは貴女達だからよ」
この言葉に香織は藤崎美弥のことを思い出した。
「はあ…あのバカ女ね。あいつの性格を考えれば大それたことは出来ないでしょうけど、小細工をしてくるのは間違いないかぁ」
香織がやれやれといった表情で手を振るとケイの方を見て話を続けた。
「ケイも藤崎美弥って名前は知ってると思うけど、あいつってやたら目立ちたがりの傾向があってね何故か知らないけど私やケイを目の敵にしてるとこがあるのよ。私はあいつのことを熟知してるけどケイは初めて会うだろうからちょっと気をつけてね」
香織が笑いながら説明をしてくれたのだが、正体がこの学園の生徒『相沢圭介』であるケイにとって事前にわかっていることである。
「ありがとうね、香織ちゃん。私も気をつけるわ」
そう言うとケイは軽く笑うのだった。
談笑を交えつつ教室で打ち合わせをしていると、学園祭実行委員の男子生徒が教室の入口から声をかける。
それと同時に幸司が声をかけるとクラスのみんなが気合いを入れるのだった。